エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
 なんだかさっきから、朔夜さんのこれまで知らなかった表情ばかりを見せられて心が落ち着かない。

 私にとっての彼は、いつも余裕があって頼りがいのある、大人の男性だった。
 それが今は、もっと身近な存在になったみたいで……すごく、ドキドキする。

 けどこれは、嫌じゃないドキドキだ。だから……困ってしまう。


「……陽咲、顔が赤い。熱があるんじゃないか?」
「えっ、いえあの、大丈夫です……っ」


 そう答えたのに、ぺとりと額に手のひらをあてられた。
 大きな手のひら。朔夜さんの体温。
 ますます、頬に熱が集まる。


「ひぇ……」
「熱いな……もう、寝るか? 一応解熱剤も飲ませて……」


 ほとんど独り言みたいに朔夜さんがつぶやいた。

 無意識に後ずさって背もたれに深く寄りかかる私の横に片手をつきながら、彼が中腰で覆い被さっているような体勢である。
 ……近い。私の体調を心配するのに忙しい朔夜さんは気づいていないみたいだけれど、とても近い。

 ドキドキしすぎて、心臓の音が目の前の彼に聞こえてしまいそう。


「さ、さくやさん……」


 情けない涙声で、名前を呼んだ。

 朔夜さんと目が合う。彼の切れ長の目がわずかに丸く見開かれて、次の瞬間ガバッと音がしそうな勢いで離れた。


「──悪かった。不躾に近づきすぎた」
「い、いえ……」


 彼の方を見られないまま、なんとか答える。まだ、心臓の音はうるさい。
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