エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
「あの、本当に、熱はないですから……」
「……じゃあ、一応体温計で計って。大丈夫そうなら、先に風呂に入ってくれ」
「わ、わかりました。ありがとうございます」


 そのとき、給湯器がメロディとともに『お風呂が沸きました』と伝えた。なんという絶妙なタイミング。

 朔夜さん、いつの間に準備してくれていたんだろう。明日からは私がやらなくちゃ。

 結局、体温計を使ってみてもやっぱり熱なんてなくて。私は入浴の用意をすべく、廊下に出て借り受けた自室へと足を踏み入れた。

 ドアを開けてすぐのところにあるスイッチを押して、照明をつける。
 まだ開けていないダンボールで少し散らかっている室内の、以前住んでいたマンションでも使っていたチェストの引き出しから下着やルームウェアを取り出した。

 そうして、チェストの上。三人分の位牌とともにふたつ並んだ写真立てを目にとめ、立ち尽くす。


「……お兄ちゃん、お父さん、お母さん」


 左側のふたりは、両親。右側の屈託のない笑顔は、お兄ちゃん。

 指先で、写真の中の笑顔たちにつ、と触れながら語りかけた。

 あなたたちがいない世界は、まだ、受け入れられなくて。
 きっとずっと、悲しいままだけれど。
 それでも、こんな私を心配して、手を差し伸べてくれるひとたちがいるから。


「私、がんばって生きるよ」

 
 小さく、けれども力強く、ささやいた。
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