エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
 その陽咲の作った食事を今夜も腹いっぱい堪能し、幸せな心地で食後の後片づけをする。

 夕飯を終えた後の洗い物などは、ふたりで行う約束だ。
 最初陽咲は自分だけでやると言い張っていたが、いつも美味しい料理を振る舞ってくれる彼女に感謝を込めて、俺がしたかったから。

 本当は俺ひとりで引き受けるつもりだったのに、そこは陽咲も譲らなかった。
 意外に頑固な性質は、兄である陽葵とも似たところでもある。

 キッチンには一応食洗機がついているのだが、結局予洗いしなくてはいけないものや食洗機に対応していない食器もあったりで、どうせそれならとすべて手洗いだ。

 俺がスポンジで擦ったものを慣れた手付きですすいでいく陽咲をチラと見つめながら、隣に彼女がいるこの幸福を不謹慎にも噛みしめる。


「あ、待って朔夜さん」


 そう声をあげたかと思うとタオルで手を拭いた陽咲が、俺の右腕に触れてきた。

 思わず固まる俺に気づいているのかいないのか、服の袖を手際良く捲り直してくれながらニッコリ笑う。


「袖、落ちてきちゃってたから。これで良し!」
「……ありがとう」


 手を伸ばせば届く距離にあるその笑顔にぐうっと心臓をわし掴みにされつつ、なんとか礼をつぶやく。

 同居した当初は何かと遠慮がちだった彼女だが、今ではここまで砕けて接してくれる。
 まるで、兄に対してそうだったような無邪気な顔を、少しずつ見せてくれるようになった。

 それは、よろこばしいことのはずなのに──彼女のこの表情は、俺を信用してくれている証のはずなのに。

 彼女の無防備さを、俺は素直によろこべずにいる。
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