エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
 風呂とドライヤーを済ませてリビングに行くと、ソファでテレビを観ていた陽咲がうとうとと船を漕いでいた。

 傍らにやって来た俺は、ローテーブルにあったリモコンを操作しテレビを消す。


「……陽咲。眠いなら、ベッドに行った方がいい」


 この様子なら、きっと今夜はすぐに寝付けるだろう。早く、横になった方がいい。

 兄の死以降、上手く眠ることができなくってしまった彼女。つい数ヶ月前よりずっと肉の落ちた頬に触れながら声をかけると、陽咲は緩慢にまぶたを開けた。

 兄と似たアーモンド型の、普段はパッチリと開いた大きな目が、今はとろりと緩んで俺を見つめる。その潤んだ瞳に、胸の奥がざわりと沸き立つ。


「ん……朔夜さんは……?」
「俺も、もうすぐ寝るよ」


 内心の激情などおくびにも出さず、あくまで“兄代わり”の顔で微笑みかけた。


「ほら陽咲、今のうちに──」


 きゅ、と脇腹あたりの服を掴まれたことで、俺は言葉を止める。

 眠たげにまばたきをしながら、それでもどこか不安そうな困り顔の彼女が、じっと俺を見上げていた。


「朔夜、さんも……いっしょ、に」


 服を掴む細い指先に、力がこもる。
 彼女が着るルームウェアの緩い襟もとから、白い首筋と胸の間の深い影が覗いていて。その無防備さに、眩暈がする。

 喉もとまでせり上った衝動を無理やりのみ込んで、俺は彼女の頭に手のひらを載せた。
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