エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
「陽咲? どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもないです」


 あなたの顔に見蕩れていました、なんて、恥ずかしくて正直に言えない。

 意味もなく髪を手ぐしで整えながら取り繕う私を彼は少しの間不思議そうに眺め、それからふっと口もとを緩めた。


「……帰ろうか」


 たとえかりそめでも──同じ家に帰る相手がいるのは、とても、うれしい。


「はい、朔夜さん」


 だから私は自然に笑って、彼の言葉にうなずいたのだった。


「……なあ、陽咲」


 建物の自動ドアをくぐりながら、朔夜さんがまっすぐ前を向いたままポツリとつぶやいた。

 その呼びかけに、私は彼の横顔を見上げる。


「もし……もし、俺が──」


 そのときだ。どこからか振動音が聞こえて、ハッとしたように彼が着ていた上着のポケットに手を入れた。

 そうして彼は取り出したスマートフォンの画面を確認するなり、目を見開く。


「ごめん陽咲、ちょっと電話してくる。先に車に戻ってて」
「あ、はい。わかりました」


 話しながら差し出してきた車のキーを、とっさに受け取った。

 なんとなく、スマートフォンを見た瞬間の朔夜さんの表情が気になったけれど、私が立ち入れることではない。彼はそのまま、くるりとこちらに背を向けた。


「──はい、もしもし」


 こちらから離れながら、彼が電話を取る。

 なんとなくその背中を目で追っていた私は、かすかに漏れ聞こえた相手方の声が若い女性のものだったことに、ドクンと心臓をはねさせた。
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