旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
第五話
 オレリアは晩餐用のドレスに着替えた。夜空のような濃紺のドレスで落ち着いた色合いだが、袖やスカートにはフリルがたっぷりと使われていて、胸元には大きなリボンが飾り付けてある。大人と子どもの狭間のような雰囲気を醸し出していた。
 コンコンコンと遠慮がちに扉が叩かれた後、部屋に入ってきたのはアーネストだった。やはり彼は、先ほどと同様、軍服姿である。
「オレリア王女殿下。迎えにきた……」
 そう言ったアーネストは、オレリアの全身にじっくりと視線を這わせてから、目を細くする。
「思うのだが……あまり、子どもらしくないな……八歳と言っていたな?」
「え?」
「いや……ミルコ族の子どもは、もっとこう……騒がしい」
「それは、オレリア様がトラゴス国の王女だからです。いかなるときも王女としての振る舞いをと、幼い頃から教育されておりますから……」
 はっとしたメーラは口元を押さえた。
「出過ぎた真似を……申し訳ございません」
「いや、いい。ここはトラゴス国ではなくハバリー国だ。知っての通り、ハバリー国は多部族が集まってできた国。そちらの国のような複雑な人間関係を気にする必要はない。メーラ殿も思うことがあるならば、遠慮せず俺に言うがいい。もちろん、オレリア王女殿下もだ」
 メーラの言葉も咎めることなく、そうやって受け入れる姿に、オレリアの心がきゅっと締まった。
 遠慮せずに思うことを言っていいと言われたら、お願いしたいことは一つだけ。
「……でしたら、オレリアと。そう呼んでくださいませんか? まだ正式に結婚する前ですが、王女殿下と呼ばれるのは好きではありません」
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