リンゴソウ

写真

『リンゴソウには気をつけろ』

この言葉を聞いて、ピンとくる人は一体何人いるのだろう?

都会の人は聞いたこともないと思う。

なぜなら、この村にしか生えていない植物‎だから。

リンゴソウは漢字で書いてもそのまま、"林檎草"。

解毒薬の作り方は代々村長にだけ教えられているらしいが、本当かどうかはわからない。

昔、リンゴソウによく似た、野いちごが枯れる直前の赤い葉と間違えて取ってしまった事例が何度かある。

そのときに1度だけ、解毒薬を作ることに成功したとの記録が残っている。

なぜ1度だけ、と思うかも知れない。

それは、必要な材料がとても貴重だかららしい。

聞いたこともないような植物が必要だったり、外国にしかないものが必要だったり。

作るのがとても困難とのことだ。

ところで、どうしてこんなに危険な植物が繁殖しているのか、と疑問に思うだろう。

リンゴソウは見るだけならとても美しいからだ。

夕日に照らされたリンゴソウは、野原が1面紅く染まって、人々を魅了してしまう美しさが潜んでいる。

観光客倍増のため、観光スポットとして、とある区域にだけ、繁殖が許可されている。


「……ねぇあとなんか書くことなぁーい?」
同じ班の中原佳奈にそう尋ねられ、俺はペンを置いた。
「ここまで全部俺が文章考えてやってんだよ、感謝しろや」
眉をひそめてそう返すと、目の前に座っている葉妻爽矢がニカッと八重歯を見せる。
「ごめんなー!俺国語さっぱりなんだよ!」
はぁっとため息をつくと、机の上の新聞に目を通していく。
俺は柊木北斗。朝平中学2年1組。
今は総合で、この朝平市について調べて、新聞にまとめて発表という、クソだるい時間。
誰だよこの授業企画したやつ……絶対意味ねぇし、こんな田舎誰が来るんだよ……。
新聞を睨みつけながらメンバーをこっそり見る。
イツメンの、仲良し5人組。
班長は藤原三来。みく、と読まれがち。
それと、双子の藤原二胡。
三来は落ち着いている印象で、二胡は元気っこ。
班長権限で班を決めたらしい。
完全に私情入りまくりだ。
額に手を当てながら新聞を見ていると、二胡が笑って文章の中の1つを指さした。
「ここ、誤字ってね?」
「ほんとだ!やば、修正液……!」
カシャカシャとペンを振って、修正液のインクを出している三来。
上手いこと直して、あとはイラストだけ。
「イラストなら任してよ!」
自称美術部のエース、佳奈が胸を張る。
「じゃあ、頼んだよ?」
担任から借りた、24色入りの色鉛筆を渡す。
その間にも、佳奈はぺろりと舌を出して、早速シャーペンで下書きを始めている。
写真なんか調べたら沢山出てくるから、見て待ってようかな。
スクロールしていっても、大体同じような、夕方に撮られた写真ばっかり。
ふぅ……とため息を吐き出して、タイピングでもしようとパソコンのタブを閉じていたとき。
……ん?
リンゴソウの……写真?
っ!?
その写真は、リンゴソウの野原に入って、自撮りしている大学生ぐらいの男の人だった。
「先生……!」
慌てて担任を呼ぶ。
日付は昨日の夕方6時。
まずいことになったかもしれない……。
今日何回目かわからないため息をつきながら、担任に事情説明を始めた。


数分後、担任は真っ青な顔で自習を言い渡すと、教室を出て行った。
コイツもバカだな。
立ち入り禁止区域に入るのは法律で禁じられているし……とりあえず成人済みだろうから、捕まること間違いなし。
ざまーみやがれ。
見たところ、この辺の人間ではなさそう……。都会の人間か?
「なになに?」
「どーしたん?」
クラスメイトが寄ってきて、パソコンを閉じる。
「んや、なんでもない」
そう誤魔化して、髪をかき上げた。
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