私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 カチンとケトルが鳴る。

「邪魔」

 遥花はキッチンに立つ彩を押しのけて、ケトルに手を伸ばし珈琲を淹れはじめた。

「ほんとお姉ちゃん見てると腹立つんだよね。こっちは必死に就活してるのにさ、お姉ちゃんは障がい者雇用とか言って簡単に就職したじゃん。超時短勤務で楽そうだし、そのうえ障害年金も貰って、おかしくない? こんな事のために自分のおさめた税金使われるの、ほんと最悪」

 珈琲を手にした遥花がわざと彩の肩にぶつかりながらダイニングテーブルへ向かう。

「あつっ……」

 並々といれられた遥花の珈琲はぶつかった衝撃で彩の腕にこぼれ、彩は反射的に顔を歪めた。けれど遥花は彩を見ようともしなければ謝りもしない。

「ねえ遥花、かかったんだけど」
「だから何? 狭いんだから仕方ないじゃん。てか、嫌なら一人暮らしすれば? お姉ちゃん社会人なんだから出ていきなよ」

 言われて、彩は口ごもる。出ていきたい。でも――。

「ああ、駄目よ遥花」

 洗面所に居た母がダイニングに戻ってきて口をはさむ。

「お姉ちゃんは突然死のリスクが高いんだから、一人暮らしなんかしたら迷惑だもの」
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