甘い初恋を、もう一度

「……あのカシスオレンジの味が、ずっと忘れられなかった」

あの商品企画を行ったのも、思い出の消化としてだった。いつも私の思い出の基準は、あの夜のことだから。


「あの時、逃げなければ良かったって、ずっと思ってたの」

それでもずっと後悔は残り続けていた。
もし逃げなければ、彼から話の続きが聞けたのだろうか。
そう何度も思った。だけど、祖父との関係もあるし……私は怖くて、あれから彼に会う機会を徹底的に避けていた。
あれはただ私をからかっていただけかも知れない。そう思う気持ちが強くて、自信がなくて、一歩を踏み出せなかった。


「俺もあの時、ちゃんと気持ちを伝えてたらって、ずっと後悔している」

彼は反対の手を、私の頭に持ってくる。掌が優しく髪の毛を撫でた。
そして目を細めて、私を見つめた。


「続きはこの後で……いい?」

彼の優しく細める目元は、昔からのまま。
いつでも私の思い出の基準の中はこの人で……やっぱり思い出にするには、気持ちが大きすぎる。

──今も昔も、心を動かされるのはこの人だけだ。


こくりと頷くと、彼は優しく肩を抱いた。

「さぁ、行こうか」

彼は私の手を引いて会社を後にする。

「思い出のカシスオレンジでも、飲みに行こうか」なんてことを言いながら。
< 27 / 27 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:38

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

再会は小さなぬくもりと一緒に

総文字数/50,035

恋愛(オフィスラブ)67ページ

マカロン文庫新人コンテストエントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
「……もう、無理。別れましょう」 彼に別れを告げた時、彼は怒りもせず、悲しみも表さず……何も感情のない顔で頷くだけだった。 そうして大昔に封印したはずの初恋。 それをまた連れてきたのは、ちいさなちいさな、可愛い命だった。
結婚相手は義兄でした~追想のハルジオン

総文字数/14,717

恋愛(純愛)28ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
私は四歳の時、この家にやってきた。 いつかは恩返しをしよう、例えば『政略結婚の駒』として。 そう思っていたけれど……… 「私の結婚相手って、お兄様……?」 そんな結婚なんてできるわけがない! ところが事故で、お兄様は記憶喪失に。 そこから分かりやすい溺愛が始まった……? *短編です
小さな願いのセレナーデ

総文字数/79,006

恋愛(純愛)158ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
三年前ウィーンに留学中、出会った人は私の王子様だった。 もう会うこともない、そう思っていたのに……。 **** 下里 晶葉 (しもさと あきは)二十九歳 今はただのバイオリン講師。 元プロオーケストラでバイオリンを弾いていたが、事情があり退団。 久我 昂志 (くが こうし) 三十三歳 ホテル ソーリスオルトス社長。 **** ──あなたの子供がいます なんて言えるはずがない。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop