小林、藝大行くってよ
 小さな駅を降りると、のんびりした風景が広がる。ここが、おれのふるさと「太秦」や。

 太秦っちゅーのは、朝鮮半島からこの地へ渡ってきた機織りの技術者集団「秦氏(はたうじ)」が、天皇への献上品として絹布をうず高く積み上げたことから「うずまさ」の姓を与えられたのが地名の由来らしい。
 
 京都最古の寺院で聖徳太子信仰の寺である広隆寺もあるし、歴史深い観光地や。
 再開発が進んだこともあって住み心地はええし、いまでは子育て世代にも人気のエリアになっとるらしい。

 そんな素晴らしい街で、この天才は生まれ育ったんや。

 てなわけで、太秦駅から徒歩5分っちゅーアクセス抜群の実家へと帰る。そこまで広いわけやなくても、落ち着く我が家やで。

 まだ早朝やけど、小林家の朝は早い。おとんはすでに出勤しとるやろうし、すでに全員起きとるはずや。

「アイムホーム!」

 鍵を開けて家へ入る。
 なんや、玄関にけったいな置物が増えとるな。トーテムポールか? どうせまたおかんが、フラダンス教室のお友達とやらに貰たんやろな。
 
「あら? おかえり。もう帰ってきたん。えらい早いな」

 おかんが洗面所から顔を出した。めっちゃパンパンやんけ。また太ったんちゃうか。

「夜行バスやって言うたがな」
「そやったかいな。あぁ、洗うもんあるなら、はよ出しや。いまから洗濯すっさかい」
「ないわ。なんで東京から帰省して、すぐに洗濯せなあかんねん」
「いま着とるん、くっさいやろ? 外歩いてきたんやし」

 おかんはわざとらしく鼻をつまんで、手でパタパタと空気を扇いだ。

「臭いわけあるかいな! フローラルのかほりやっちゅーねん!」
「あーはいはい。ほなら、もう洗濯機回すわ」

 素っ気なく言うて、おかんは洗面所へ戻って行った。

 ほんま、相変わらずやな。普通は愛する息子が帰省したら、喜びのHug&Kissとかするんちゃうん?
 ……いや、せんでええけどな。想像して、ぞわっとしたわ。

 ひとまず2階の自室へ荷物を置きに行こうとすると、リビングから真っ白な鳥がトコトコ歩いてきた。

「おお、花道ぃー! 元気やったかー!」

 おれの愛するペット、タイハクオウムの花道や。
 生後4か月のときから飼い始めて、今年で7歳になる。タイハクオウムは40年から60年くらいと寿命が長いし、まだまだヒヨっ子やな。

「イッサ。イッサ」
「おうおう、一佐や! 帰ってきたんやで!」
「テンサイ。テンサイデスカラ」
「そやそや! 天才やで!」

 おれに懐いとるさかい、おれの言動をよう真似しとる。愛いやつめ。
 花道がおれの肩に乗ったので、そのまま2階へ上がった。
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