小林、藝大行くってよ
 2階にある3つの部屋のうち、真ん中がマイルームや。ああ、我が城よ。王の帰還やで。やはり実家の自室が、一番居心地ええなぁ……。

「って、あっつ!」

 ドアを開けた瞬間、むわっとした熱気が襲いかかってきた。暑い。暑すぎる。まるでサウナや。そしてなんや、くっさいわ。

 これはあかん。すぐさまエアコンをつけんと。インドネシアが生息地域であるタイハクオウムの花道は、あんま気にしてへんけどな。

 ん? いくらリモコンを押しても、エアコンが起動せん。リモコンの電池はあるが、うんともすんとも言わん。
 なんでや! まさか壊れたんか! この酷暑に! Oh My God!

 一切起きる気配のないエアコンを睨みつけて念を送ろうとすると、あることに気がつく。
 コンセント、抜けとるやんけー!

「そや。あんたの部屋のエアコン、コンセント抜いてんで」

 おかんが部屋の前を通りかかった。

「コンセントを抜くて……なにしてくれんねん!」
「節電のためや。当たり前やろ? なんで、誰も使わへん部屋の待機電力を払わなあかんねん」
「正論ッ!」

 こればかりは、返す言葉がないわ。何か月も使わんわけやし、そらそうするわな。
 まぁ、ええわ。コンセントを差せば快適になるわけやしな。届かへんから、机の上に乗らなあかんのが面倒やけど。

「あ、コンセント差して、すぐ動かしたらあかんで。故障の原因になるて、テレビで言うてたさかい」
「なんやて? ほな、どれくらいしてつけたらええねん」
「8時間やて」
「なっが! なんで前もってコンセント差しとってくれんかったんや!」
「あんたが何時に帰ってくるか知らんしな。時間を連絡せんほうが悪いわ」
「夜行バスで、今日帰るて言うたがな!」
「何時着かは知らんわ」

 とぼけた顔をして言うと、おかんはまた1階へ戻った。
 
 ……しゃーない。ひとまずコンセントだけ差して、昼過ぎまでリビングで過ごそう。
 窓は開けておくか。熱風が入ってくるけども、においが籠っとるし。扇風機も回しとこ。はぁ……快適な我が城に戻るまで、時間かかるわ……。
 
「あんた、今日は出かけへんの?」

 リビングで花道と戯れとると、洗濯物を干し終えたおかんが訊いてきた。

「帰ってきたばっかで、出かけるかいな」
「友達おらんもんなぁ」
「おるわいッ! 長旅で疲れとるだけやっちゅーねん!」
「私は、徳永さんとランチの約束しとるさかい。昼は適当に食べとってや」

 誰やねん、徳永さん。おかんの交友関係は広すぎるさかい、よう分からん。K-POP友達、フラダンス友達、朝ドラ友達、パート友達……いろんなカテゴリがあるらしいわ。
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