初恋シンドローム
しゃくるようにしてわたしを示した悠真は、毅然とした態度を崩さない。
どきりとした。
そんなことない、なんて中途半端に大和くんを庇うこともできず、口をつぐんだまま立ち尽くす。
「だから謝ってるんでしょ」
「……何したか知らないけど、謝るくらいなら最初からするなよ」
悠真のその言葉は、実のところ大和くんに向けたわけではなかったんじゃないかと直感的に思った。
『ごめん』
わたしと出かけた日、彼もまたそう繰り返していたから。
『自分のことしか考えてなかった。今日のぜんぶ、俺のわがままだ』
もしかしたら過去の自分に向けての非難だったのかもしれない。
何となくそのときのことがよぎって、重なって、余計にむきになってしまったんじゃないだろうか。
面食らったように一瞬ほうけていた大和くんは、ややあって立ち直るなり悠真の肩を突いた。
どん、という鈍い音に慌てる。
「大和くん! 悠真、大丈夫?」
「……うん」
さすがに予想外の行動で、つい咎めるように大和くんを見た。
彼は唇を噛み締めたまま顔を背ける。
冷静さを欠いているのは一目瞭然だったけれど、これでもどうにか理性を保った結果なのだろう。
「……本当、いちいちむかつく。邪魔しないで」
「俺は自分の気持ちに嘘つきたくないだけ」
「なにそれ、身勝手すぎない?」
「認めなよ。……もう、あの頃とはちがう」
大人しい印象の強かった悠真だけれど、意外にも怯むことなく淡々と言を返していた。
押されているように見えた大和くんは、だけど言い返すのをやめて、怪訝そうな表情を浮かべる。
「どういう意味?」
「……そのままの意味」
そう答えた悠真は目を伏せ、切り上げるべく足を進めた。
さっさと教室の中へ入っていってしまう。
その姿を目で追ってから、思わず大和くんと顔を見合わせた。
そうしてから慌てて逸らしてしまうと、彼もまた慌てたように「風ちゃん」とわたしを呼ぶ。
「本当にごめんね」
「……そんなに謝らないで」
「でも……」
「あのときのことなら気にしてないから。わたしこそごめん」
大和くんがしようとしたキスは確かに独りよがりだったかもしれない。
だけど、わたしも同じくらい独りよがりな理由で拒んだ。
嫌だったわけじゃなくて、ただ受け入れるのに心の準備が足りなかっただけだ。