冷酷社長が政略妻に注ぐ執愛は世界で一番重くて甘い

 達夫の言葉に頭痛を起こした香蓮は、頭を抱え自室のドアを開けた。

 「もう、限界」

 実の父を百パーセント疑っていたわけではなかったが、先程の言動から絶望的だ。

 玲志の言っていた話は事実なのだろう。

 香蓮の脳裏に、温度のない美しい笑みを浮かべた玲志がちらつく。

 彼が言う〝復讐〟がどういうものか、まったく想像がつかない。これから生活を共にするが、どんな恐ろしい目に遭わせられるのだろう。

 「死んだら楽になるのかな……」

 過去、最後の一歩を踏みとどめたのは、いつも玲志の存在だった。

 玲志に再会する奇跡を信じて生きながらえてきた。

 「玲志君に会えて本当にうれしかった」

 そして神は、香蓮の望まない形であるが願いを叶えた。

 こんな状況でも、香蓮の胸は玲志を思い出すと締め付けられる。

  あんなに冷たい態度をとられても、香蓮の長年の恋心が消えることはなかった。

 「どうせ誰にとっても、私の命は必要ないのよ……」

 自分の肉親が玲志をあそこまで苦しめてしまい、懺悔の気持ちが大きい。

 愛する人の苦しみを少しでも取り除いてから、死を選ぶのは遅くはないだろう。

 勝手に流れてくる涙をぬぐうことなく、ベッドに倒れた香蓮はそのまま意識を手放した。
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