聖女召喚されたけど、思ってたのと違う ~冷遇聖女は喜んで竜族な王子への手土産になります~

エピローグ つまるところ、ハッピーエンド

 目が点になっていた私を見かねてか、使節団の女性がこちらへ来て会話のフォローに入ってくれた。
 彼女が言うにはディーカバリアは緑竜の国で、スクルナグは彼らにとって()()()()だという。そして丁寧に加工するほど、その美味しさは増して行くという。
 つまり私の彫刻は、彼らの目にはシェフやパティシエが作った芸術品的()()に映った……というわけだった。
 それならば、宰相さんが話していた「どの料理もほとんど手付かずだった」理由がわかる。私たちが逆に彫刻を食卓に出されて、さあ召し上がれと言われても食べないだろう。というか食べられない。

「えっと……ご自由にどうぞ」

 気に入ってもらってくれたのなら、後はその人の自由だ。飾ろうが……食べようが。

「ミナセ! ありがとう‼」

 『待て』をされた後に『よし』と言われた犬のように、王子がパッと顔を輝かせる。
 薔薇を(かたど)った彫刻を手にした彼が、もう我慢できないといった感じでそれにかぶりつく。
 バリバリ
 ゴリゴリ
 「食事……?」という音がするものの、視覚的には完全に美食に舌鼓を打つイケメンの図。
 私の『料理で相手の胃袋を掴む』という夢が叶った瞬間だった。

(はっ、この王子様、実は私の理想の男性なのでは)

 私の頭上に、ほわほわと未来図が浮かんでくる。
 私の彫刻料理を褒め称え、美味しいと食べてくれる夫。しかも子供が彼に似れば、我が子にデコ弁を作ることも夢じゃない……⁉
 私の頭の中で、リンゴンと教会の鐘が鳴った気がした。
 そして鐘の音が聞こえたのは、どうやら私だけではなかったようだった。

「ミナセ、どうか俺と結婚して欲しい!」

 テンションMAXと言わんばかりの王子が、ガシッと私の両手を取ってくる。

「よ、喜んで!」
「本当に⁉ 嬉しい!」

 こちらも人生最大レベルのテンションで答えれば、彼は溢れんばかりの笑顔を返してくれた。

「よし、結婚の準備をしろ!」
「既にやっております!」

 記録水晶のときと同様、王子の指示に打てば響く返事が来る。見ればその言葉通り、使節団の女性はスケジュール帳らしきものを開き高速でペンで何かを書き入れていた。
 しかもこの間に、マリアナさんが私の御用聞きとしてディーカバリア国に雇われる話までまとまっていた。

「ミナセには俺たちとは違う食事が必要だろうからな」

 確かにディーカバリアで、さっき冗談交じりに想像した木材な食事を出されても困る。
 私としてはとても助かるが、マリアナさんは思いがけず国を出ることになって大丈夫なんだろうか。
 そう思い、私はチラッと彼女に目を向けた。

「商売敵がいない国単位の市場……ふふふ……これは見逃せません」

 あ、全然大丈夫そう。

「ミナセのためにクノン国は必要だな。父上から出方次第ではこの地を焦土にしていいと言われていたが、仕方がない。止めておこう」
「え?」

 何だか今、さらっと恐ろしいことを言いませんでした?
 え、国交回復の外交と思っていたのはクノン国だけで、ディーカバリア国側はそんなつもりはなかった的な? 国交回復どころか、これまで静観してきたのを止めてとうとう手を下しに来ていたとかそういう?
 クノン国は、実は本当に聖女が必要なほど国滅亡の危機だった……⁉

「とはいえ、頭とその側近はまるっとすげ替えるとしよう。何だかミナセへの態度が気に入らなかったからな」
「え?」

 頭ってクノン国の王のことだよね? そんな規格に合わなかったから部品を取り替えようみたいな気軽さで代えられるものなの?

「ここの王子は話のわかる奴だったから、風通しが良くなればうちと友好な関係も築くことも可能だろう。新しい人員は会食のときの様子を参考にするとして。前のは王子の邪魔をしないように……まあそこそこ遠くの山にでも捨てておけばいいかな」
「なんて?」
「よし、搬出作業が終わったようだ。さあ、ミナセ。俺たちの国へ行こう」

 王子がにこにことしながら、私に手を差し出してくる。
 私がこの手を取ることで、私を厄介者としたクノン国は救われる。多少の犠牲は出るようだけれど。
 そのことを含めてこの事実は、そう遠くないうちにクノン国民の耳に入るだろう。クノン国は焦土になるところを聖女のお陰で免れたと。そして、犠牲となった者は聖女を冷遇したため自業自得だったのだと。
 この国は私に借りができた。とてつもなく大きな借りが。
 クノン国がディーカバリアの友好国となったなら、一層私は厚遇されることだろう。奇しくも私は、本物の救国の聖女になったのだから。

「連れて行って下さい、あなたの国へ」

 色々な意味で自然と笑顔になれた私は、王子の手を取った。
 そして聖女の責務をきっちり果たした私は、大手を振ってクノン国を後にしたのだった――


 -END-
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