君に会うために僕は
第四章
あぁ、この奥の扉にあの人がいると思うと緊張する。
私はおそるおそるその引き戸を開けた。
ガラガラ
「あの…こ、こんにちは、結城先生!せ、制服見せに来ましたー!ほらー」
私は扉を閉まるとその場で一回転して見せた。スカートがふわりとなびく。私は正面で止まるとまるでダンスを踊り終えた貴族のように、スカートのすそをつまんで広げて見せ、足をクロスさせお辞儀をした。
「…本来であれば”こんにちは”だったんだけどね。もう、”こんばんは”の時間だね。”二宮紗月”さん」
いつもであれば”紗月ちゃん”呼びなのにフルネームで名前を呼ばれた。これは間違いなく怒っている。顔をあげることができない。
「…なーんて。学校生活が楽しそうで何よりだよ。紗月ちゃん。入学おめでとう。制服似合っているよ」
「結城先生ー!ごめんなさい、遅れてしまって。部活動に集中しすぎてしまって…その時間を忘れていました。今度から気を付けます」
本当は診察自体忘れていたんだけど…。そんなこと言ったらめっちゃ怒られるだろうから言わないでおこう。
「それじゃ、椅子に座ってください」
「はい」
私は結城先生の目の前にある診察椅子に座った。
結城先生は私が幼いころからお世話になっている先生だ。私の記憶のことだったり、メンタル面でのサポートをしてくれている。本当はここまで頻繁に来なくても大丈夫みたいだけど、私の両親が心配して今は月1くらいの頻度で通っている。
「高校生活はどうですか?友達はできた?」
「はい!一番仲がいい子はルナちゃんっていうんですけど、小動物みたいで可愛いんです。あとクラスの子たちともだいぶ仲良くなってきました。楽しい学校生活を今のところは送っています」
「それはよかった。部活動は何に入ったの?」
「それが、天文部と美術部に…。美術部には優斗先輩とルナちゃんがいて…断れませんでした」
「あぁ…例の彼ね…。仲良くしてるの?」
「…まぁ、そうですね…。はい。そうするしかないので…」
「そうなのね…」
結城先生は私に色々質問をしながらメモを取っていく。毎度思うのだがそのメモはいったい何に使っているのだろうか?治療に必要な情報なのかは疑問だ。
「んーっと…記憶の方はどうかな。なんか見て思い出したりした?」
「!そ、そうなんです、結城先生。思い出せたことがあったんです。聞いてもらえますか?」
私はそのまま先日記憶を頼りに児童館へ行ったことを事細かに話した。
記憶にわずかに残っていた情景を進んでいって児童館にたどり着いたこと。
そこにいた兄妹に何故か懐かしさを感じたこと。
児童館に入って感じた久しぶりな匂いや感覚。
大好きだったプラネタリウム。そこにかつて好きだった人と来ていたこと。
結城先生に話すだけでなんだか心がぽかぽかとしてきて、少し泣きそうになった。
「…そのことご両親には?」
「言ってませんけど…言わないでくださいね」
「…うーん、なんか頭痛がしたりとか胸痛とかはなかったの?」
「はい、全然大丈夫でした。みんな心配性ですね…」
「…まぁ、様子見ってことで。なんかあったら必ず報告するように」
「わかりました」
私は胸を撫でおろした。両親になんていわれたらあの心配性な二人のことだ、部活動も禁止になってしまう。それはできれば避けたいし、この学校に来た意味がなくなってしまう。
けれども、結城先生はずっとうーんと唸っていた。
「でもやっぱり一人で記憶探しするの心配だなぁ。誰かいないの?友達で付き合ってくれそうな人」
「え?…いや、こんなことに付き合わせるのはちょっと…」
「でもなぁ、なんかあった時に周りに誰もいないとなると…。本当は私が一緒に行ってあげたいんだけど。患者が君だけじゃなくてねぇ…」
「それはそうですよ…。別に私一人でも大丈夫ですよ」
「うーん…やっぱ親御さんに相談しない?私も同席するよ」
「…私の父親がどんな人か知っているでしょ?先生」
先生は苦笑いして、唸りながら手元にある紙を見返した。眉間に寄せ皺を困った顔をしている。先生も先生で本当に心配性だと毎回思う。みんななんでこんなに心配するのだろう。こんなに元気なのに…。
「…わかりました。…考えておきます…。でもこんな話、人にすることじゃないと思うんです。先生はどうお思いですか」
私は先生に問いかけた。私だって別に言いふらしたくはないし、誰にもこれ以上心配はかけたくない。
「そうだね。その通りです。心配をかけてしまうしね。でも…これは私の考えだけど、これからを一緒に過ごしていく人には伝えてみてもいいんじゃないかなって、先生は思うよ」
私はおそるおそるその引き戸を開けた。
ガラガラ
「あの…こ、こんにちは、結城先生!せ、制服見せに来ましたー!ほらー」
私は扉を閉まるとその場で一回転して見せた。スカートがふわりとなびく。私は正面で止まるとまるでダンスを踊り終えた貴族のように、スカートのすそをつまんで広げて見せ、足をクロスさせお辞儀をした。
「…本来であれば”こんにちは”だったんだけどね。もう、”こんばんは”の時間だね。”二宮紗月”さん」
いつもであれば”紗月ちゃん”呼びなのにフルネームで名前を呼ばれた。これは間違いなく怒っている。顔をあげることができない。
「…なーんて。学校生活が楽しそうで何よりだよ。紗月ちゃん。入学おめでとう。制服似合っているよ」
「結城先生ー!ごめんなさい、遅れてしまって。部活動に集中しすぎてしまって…その時間を忘れていました。今度から気を付けます」
本当は診察自体忘れていたんだけど…。そんなこと言ったらめっちゃ怒られるだろうから言わないでおこう。
「それじゃ、椅子に座ってください」
「はい」
私は結城先生の目の前にある診察椅子に座った。
結城先生は私が幼いころからお世話になっている先生だ。私の記憶のことだったり、メンタル面でのサポートをしてくれている。本当はここまで頻繁に来なくても大丈夫みたいだけど、私の両親が心配して今は月1くらいの頻度で通っている。
「高校生活はどうですか?友達はできた?」
「はい!一番仲がいい子はルナちゃんっていうんですけど、小動物みたいで可愛いんです。あとクラスの子たちともだいぶ仲良くなってきました。楽しい学校生活を今のところは送っています」
「それはよかった。部活動は何に入ったの?」
「それが、天文部と美術部に…。美術部には優斗先輩とルナちゃんがいて…断れませんでした」
「あぁ…例の彼ね…。仲良くしてるの?」
「…まぁ、そうですね…。はい。そうするしかないので…」
「そうなのね…」
結城先生は私に色々質問をしながらメモを取っていく。毎度思うのだがそのメモはいったい何に使っているのだろうか?治療に必要な情報なのかは疑問だ。
「んーっと…記憶の方はどうかな。なんか見て思い出したりした?」
「!そ、そうなんです、結城先生。思い出せたことがあったんです。聞いてもらえますか?」
私はそのまま先日記憶を頼りに児童館へ行ったことを事細かに話した。
記憶にわずかに残っていた情景を進んでいって児童館にたどり着いたこと。
そこにいた兄妹に何故か懐かしさを感じたこと。
児童館に入って感じた久しぶりな匂いや感覚。
大好きだったプラネタリウム。そこにかつて好きだった人と来ていたこと。
結城先生に話すだけでなんだか心がぽかぽかとしてきて、少し泣きそうになった。
「…そのことご両親には?」
「言ってませんけど…言わないでくださいね」
「…うーん、なんか頭痛がしたりとか胸痛とかはなかったの?」
「はい、全然大丈夫でした。みんな心配性ですね…」
「…まぁ、様子見ってことで。なんかあったら必ず報告するように」
「わかりました」
私は胸を撫でおろした。両親になんていわれたらあの心配性な二人のことだ、部活動も禁止になってしまう。それはできれば避けたいし、この学校に来た意味がなくなってしまう。
けれども、結城先生はずっとうーんと唸っていた。
「でもやっぱり一人で記憶探しするの心配だなぁ。誰かいないの?友達で付き合ってくれそうな人」
「え?…いや、こんなことに付き合わせるのはちょっと…」
「でもなぁ、なんかあった時に周りに誰もいないとなると…。本当は私が一緒に行ってあげたいんだけど。患者が君だけじゃなくてねぇ…」
「それはそうですよ…。別に私一人でも大丈夫ですよ」
「うーん…やっぱ親御さんに相談しない?私も同席するよ」
「…私の父親がどんな人か知っているでしょ?先生」
先生は苦笑いして、唸りながら手元にある紙を見返した。眉間に寄せ皺を困った顔をしている。先生も先生で本当に心配性だと毎回思う。みんななんでこんなに心配するのだろう。こんなに元気なのに…。
「…わかりました。…考えておきます…。でもこんな話、人にすることじゃないと思うんです。先生はどうお思いですか」
私は先生に問いかけた。私だって別に言いふらしたくはないし、誰にもこれ以上心配はかけたくない。
「そうだね。その通りです。心配をかけてしまうしね。でも…これは私の考えだけど、これからを一緒に過ごしていく人には伝えてみてもいいんじゃないかなって、先生は思うよ」