大嫌い同士の大恋愛
――……うわぁ……。
目が勝手に開き、私は、緩々と起き上がる。
――……子供の頃の記憶が、どんどん引きずり出され、げんなりしてきた。
私は、そのままベッドに座り込む。
昨夜から、そのまま、夕飯も食べずに爆睡してしまったらしい。
――たぶん、現実への拒否反応。脳が仕事をしたくなくなったようだ。
ボサボサになっただろう髪を撫でつけると、大きくため息。
――あの時、江陽は、うなづいていたかしら……?
遠目に見えたヤツの口が、わかった、と、言っていた気がするのは――気のせいなのか。
我ながら、適当もいいところなのに。
本気にしていたら申し訳無いと、ほんの少しだけ思った。
私は、ゆっくりとベッドから下り、サイドボードに置いた時計を見やる。
――……は?
時刻は――八時半。
瞬間、全身に、ぞわり、と、した感覚。
――うそ。
そう思うが遅い、着ていたものをすべて脱ぎ捨て、三分でシャワーしながら洗顔。
ハンズフリーにしたドライヤーで髪を乾かしながら、化粧水をたたき、乳液を塗り、ベースメイク。
服は、適当にクローゼットから取り出し着替え――ここまでで十二分。
セミロングの髪を、無理矢理後ろで一つに縛り上げ、バッグを持って猛ダッシュした。
「――……お、は、よ……ござい、ま、す……」
企画課に飛び込んだのは、始業三分前。
息切れしながらバッグを抱え、部屋を進んで行く私を、既に仕事を始めていた課内の人間は、恐る恐る見やり、軽く挨拶を返す。
「おはよう、名木沢クン。珍しいね、滑り込み」
「か、課長。……遅くなり申し訳ありません……」
神屋課長は、笑って手を振る。
「ギリギリセーフだって。常習じゃないんだから、気にしない。そんな日もあるって」
けれど、私は、頭を下げると、自分の席に着いた。
――ああ、もう、不覚!
今まで、こんな事は一度も無かった。
――……完全に、江陽のせいだ。
チラリと一班の方を見やると、ヤツは、目を丸くして私を見ていた。
バチリ、と、目が合い、思わず顔を逸らす。
そして、ごまかすように手元の書類を整理していき――三枚目で手が止まった。
「名木沢さん、おはようございます。一応、デザインの候補、いくつか作ってみたからチェックお願いできますか?」
そのタイミングで、片桐さんが、やってくる。
そして、隣の席に座ると、にこやかにのぞき込んできた。
「……お、おはよう、ございます……。……し、承知しました……」
ぎこちなさは、ごまかしきれない。
片桐さんは、苦笑いを浮かべ、私に小声で言った。
「――気にしないで、とは言えないけれど、気に病まないで。……完全に、僕が悪いから」
暗に、昨日の事なのだと気づき、心臓が跳ね上がる。
――ていうか、キスされた相手と、どうやって接したら良いの⁉
「――いえ、そういう訳には……」
ゴニョゴニョと、手元の書類の角を無意味に手でつまみながら、私は、そう返す。
「いや、セクハラ事案で訴えられても、文句は言えないからさ」
「別に、そんな事はしません」
「でも、不同意、でしょ?」
「――驚いただけですから」
そう答えれば、片桐さんは、黙り込む。
――何か、間違えた?
私は、心配になって顔を上げるが、彼は、目を丸くして、こちらを見ていた。
「あ、あの……片桐さん……?」
「……いや、えっと……」
珍しく口ごもりながら、チラリと周囲をうかがった彼は、コソリ、と、更に小さな声で私に言った。
「――この件は、また、終業後で良い……?」
「――……承知しました……」
まるで、仕事の話のようだが、中身は、完全なる私用。
なのに、私達が揃っていると、そうは見えないようで、誰の視線を受けるでもなく、そのまま本当に、仕事の話に移行していった。
目が勝手に開き、私は、緩々と起き上がる。
――……子供の頃の記憶が、どんどん引きずり出され、げんなりしてきた。
私は、そのままベッドに座り込む。
昨夜から、そのまま、夕飯も食べずに爆睡してしまったらしい。
――たぶん、現実への拒否反応。脳が仕事をしたくなくなったようだ。
ボサボサになっただろう髪を撫でつけると、大きくため息。
――あの時、江陽は、うなづいていたかしら……?
遠目に見えたヤツの口が、わかった、と、言っていた気がするのは――気のせいなのか。
我ながら、適当もいいところなのに。
本気にしていたら申し訳無いと、ほんの少しだけ思った。
私は、ゆっくりとベッドから下り、サイドボードに置いた時計を見やる。
――……は?
時刻は――八時半。
瞬間、全身に、ぞわり、と、した感覚。
――うそ。
そう思うが遅い、着ていたものをすべて脱ぎ捨て、三分でシャワーしながら洗顔。
ハンズフリーにしたドライヤーで髪を乾かしながら、化粧水をたたき、乳液を塗り、ベースメイク。
服は、適当にクローゼットから取り出し着替え――ここまでで十二分。
セミロングの髪を、無理矢理後ろで一つに縛り上げ、バッグを持って猛ダッシュした。
「――……お、は、よ……ござい、ま、す……」
企画課に飛び込んだのは、始業三分前。
息切れしながらバッグを抱え、部屋を進んで行く私を、既に仕事を始めていた課内の人間は、恐る恐る見やり、軽く挨拶を返す。
「おはよう、名木沢クン。珍しいね、滑り込み」
「か、課長。……遅くなり申し訳ありません……」
神屋課長は、笑って手を振る。
「ギリギリセーフだって。常習じゃないんだから、気にしない。そんな日もあるって」
けれど、私は、頭を下げると、自分の席に着いた。
――ああ、もう、不覚!
今まで、こんな事は一度も無かった。
――……完全に、江陽のせいだ。
チラリと一班の方を見やると、ヤツは、目を丸くして私を見ていた。
バチリ、と、目が合い、思わず顔を逸らす。
そして、ごまかすように手元の書類を整理していき――三枚目で手が止まった。
「名木沢さん、おはようございます。一応、デザインの候補、いくつか作ってみたからチェックお願いできますか?」
そのタイミングで、片桐さんが、やってくる。
そして、隣の席に座ると、にこやかにのぞき込んできた。
「……お、おはよう、ございます……。……し、承知しました……」
ぎこちなさは、ごまかしきれない。
片桐さんは、苦笑いを浮かべ、私に小声で言った。
「――気にしないで、とは言えないけれど、気に病まないで。……完全に、僕が悪いから」
暗に、昨日の事なのだと気づき、心臓が跳ね上がる。
――ていうか、キスされた相手と、どうやって接したら良いの⁉
「――いえ、そういう訳には……」
ゴニョゴニョと、手元の書類の角を無意味に手でつまみながら、私は、そう返す。
「いや、セクハラ事案で訴えられても、文句は言えないからさ」
「別に、そんな事はしません」
「でも、不同意、でしょ?」
「――驚いただけですから」
そう答えれば、片桐さんは、黙り込む。
――何か、間違えた?
私は、心配になって顔を上げるが、彼は、目を丸くして、こちらを見ていた。
「あ、あの……片桐さん……?」
「……いや、えっと……」
珍しく口ごもりながら、チラリと周囲をうかがった彼は、コソリ、と、更に小さな声で私に言った。
「――この件は、また、終業後で良い……?」
「――……承知しました……」
まるで、仕事の話のようだが、中身は、完全なる私用。
なのに、私達が揃っていると、そうは見えないようで、誰の視線を受けるでもなく、そのまま本当に、仕事の話に移行していった。