冷酷な公爵様は名無しのお飾り妻がお気に入り〜悪女な姉の身代わりで結婚したはずが、気がつくと溺愛されていました〜
 こうなったらどんな処罰でも受け入れようと覚悟を決める。名無しは神妙な面持ちでゆっくりと姿勢を戻し、目の前までやってきたシルヴァンスに視線を向けた。

 シルヴァンスはいつもと変わらず麗しい。サラサラの銀糸のような髪にエメラルドを思わせる透き通った瞳、すっと通った鼻筋に適度な厚みのある唇からは色気さえ感じる。

 前公爵夫妻が事故で亡くなり、若くして公爵家を継いだ天才的頭脳を持つシルヴァンスは、これまで科学者として研究を重ね数々の功績を残してきた。国王の(おい)であることを除いても、この国にとって重要な存在であることは間違いない。

 そんな夫を騙していたのだから、重罪に問われるのも当然のことだ。

(たとえ身代わりだったとしても、わずかな間、私のような者がこのマードリック公爵家で何不自由なく暮らせたのは人生最後の幸運でした……)

 シルヴァンスの言葉を待ちながら、ここが人生の終着地点だったのかと名無しはあきらめの境地に達する。
 そんな名無しにシルヴァンスは数枚の書類を差し出した。

「では、改めてこちらの書類にサインをしてもらおう」

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