乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
あたしは今ある幸せで十分。これ以上欲張ったらバチが当たりそうなくらい。

だから榊も絶対にそうじゃなきゃ。当たり前じゃなきゃ。ティッシュに手を伸ばして鼻をかむ。

「ありがと…、すごい説得力」

『新婚旅行も、何がなんでも遊佐クンに連れてってもらってよ?三人のお土産、期待してるから。いい?』

「秘境の温泉まんじゅうしかなかったらごめん」

『味ちがいなら許すけど?』

スマホ越しにお互い冗談めかした。

「紗江に話せて、なんかやっと肩の荷が下りた気がする」

『次からは黙ってないで話してよ。知らないで宮子をひとりにしたって後悔するのがイヤ』

そうする約束に、四人でまた会う約束も上乗せして、笑顔で通話を切った。

「幸せ者だよねぇ・・・」

真っ黒になった画面に向かってつぶやく。

極道の娘だからしかたないって思うことが、こんなに少なく生きてこられて。これからの人生、叶わないことがちょっとくらいあっても帳消しになるくらい、あたしは幸せ。そっと噛みしめた。

胸の隅で、アンバランスに揺れてる何かには気付かないふりで。





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