乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
普通のリアクション。もしかして・・・知らない?榊が黙ってた?戸惑いとなにかが混ざって、小骨みたいに引っかかった。

真に余計な気を揉ませたくなかったとか、話すタイミング逃しただけとか。きっとそう。だって榊だもん。

呪文みたいに言い聞かせ、引っかかった小骨を無理に飲み込む。病院から戻ったらひとつずつ片付ければいいじゃない。放ったらかしにできないあの(ひと)のことも。

みんなを送り出し、梅雨の切れ間で薄陽が射す予報なのを午前は家事労働、午後はマンションの風通しに行こうと思い立った。

結婚前の愛の巣だった部屋は別荘状態で、たまに真が仕事で使うくらい。もしも夫婦喧嘩したとき、家出用に便利かなーなんて思ったりしたけど、その使い道は実現したことない。たぶん一生ない。意地張るまえにダンナの掌のうえで転がってる。

ママと昼ご飯を済ませて実家に顔を出すと、ちょうど来てた税理士さんをおばあちゃんに紹介されて、成り行きで資産管理のよもやま話を小一時間。

脳ミソに入社試験以来の疲労感を覚えながら、組事務所に寄る前に自分の愛車が気になってガレージへ足を向ける。たまにエンジンかけて動かさないと可哀相だもんね。

車庫からフロントがはみ出た黒のミニバンが見え、裏側を洗車してるらしい流水音に話し声が混ざった。誰だか知らなくても挨拶は基本だ。

「こ・・・」

「榊さん、マジ大丈夫っスかねー?」
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