私はもうあなたの婚約者ではないのですが???今日も何故かプロポーズされます。
私の両親は会社を経営していて、私はちょっとしたお嬢様だった。
ここまで何の不自由もなく暮らしていた。そう、一週間前までは。

学校の終業式が終わり、家に帰宅した時だった。
いつも通り家の鍵を開けようとしても鍵が合わず、ドアが開かなかった。

「…え?なんで?」

何度も何度も挑戦したが開かず、母親に連絡をした。

《ママ、家の鍵が開かないんだけど…》

連絡してから待てど暮らせど、そのメッセージが既読になることはなく。
父親にも確認を取ったが結果は同じだった。

1時間待ってみても連絡が取れなかったので、とりあえず近くの喫茶店で待とうと考えていた時、
家の前に見たことのある真っ黒な車が止まった。誰もが知っている超高級車。リアガラスがゆっくりと下がっていく。

「やぁ、有亜。久しぶりに会ったね」

「…あ、隼人の…。おじ様…こんにちは…」

車に乗っていたのは隼人の父親だった。
隼人は一応…”婚約者”なのでよく会っていたが彼の父親に会うのは半年ぶりだった。

彼の両親が経営する会社は私の両親のいわゆるお得意様。けれど、規模が違かった。
簡単に説明すると私の家は中小企業で、彼の家は大企業。
住んでいる家も、乗っている車も、使っているものも。何もかも私の家より勝っていた。

「…えっと、今両親はいないのですが…。何か御用でしょうか?」

「あぁ、君に会いに来たんだ。…きっと困っていると思ってね」

「…どういうことですか?」

「まぁ、とにかく家で話そうか。乗りなさい」

「…わかりました」

おじ様はあまり笑うことがなく少し高圧的で苦手だった。
私のパパはとても気さくで常に笑顔な人だ。怒っているのも見たことがない。こんな正反対な二人が一緒に仕事ができているなんて不思議なものだといつも思っている。

車内はとても静かだった。音楽もなく、運転手が話すこともない。
ちらっと見てみると彼は窓の外をみて難しそうな顔をしていた。

「…あの…」

「…何か?」

ほほ笑むこともなく、ぎろっとこちらを見た。
本当に隼人とは似ていない。隼人はもっと…――。

「あ、あの、どうしてわざわざ隼人の家まで行くんですか?車の中ではダメなんでしょうか?」

「…家まで行けばわかる」

「…そう…ですか」

そういうとまた窓の外を向いてしまった。

…静かな人だ。時間がたつのがとても遅く感じる。

本当に似ていないと思う。
隼人はもっと明るくて、ほわほわしてて。
一緒にいるときは時間がたつのがあっという間に感じるのに。
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