玉響の花雫    壱
菖蒲と別れ、居酒屋から帰る途中で会社の前に差し掛かると、入り口で偶然古平さんと出会った。


「古平さん、遅くまでお疲れ様です。今お仕事帰りですか?」


エントランスの方に駆け寄ると疲れた顔をした古平さんが大きく溜息を吐いた。


『そうなの‥月末は何かと忙しくて。それより!どうしたの!?そんなに泣き腫らした目をして。』


えっ?


夜でも会社の前はエントランスが明るくライトアップされているからか、古平さんに近付かれ顔を覗き込まれる。


「あ、その‥‥みなさんのメッセージに感動してしまって‥泣きました。ありがとうございます。まだ分かりませんが総務でこれからも
頑張れれば嬉しいなって‥‥ウワ!」


嘘ではないから恥ずかしくて俯くと、いきなり古平さんにその場で思いっきり抱きしめられてしまった


「こ、古平さん!?」


通り過ぎる人もジロジロ見る中でもお構いなしで抱きつかれ慌てていると、突然私から古平さんが勢いよく離れた


『なぁにしてんだ?こんなとことで。お、霞ちゃんじゃん、お疲れ。』


「は、蓮見さん、お疲れ様です。」


お辞儀をしたら蓮見さんの後ろに筒井さんの姿も見つけてしまい焦ってもう一度頭を下げた。


『離してくださいよ!せっかくできた良き後輩に愛のエールを送っていたのに。』


『はぁ?何が愛のエールだよ。さっさと帰るぞ。じゃあね霞ちゃん。滉一も来週忘れるなよ。』


『ああ、お疲れ。』


蓮見さんに首根っこを掴まれたまま連れて行かれる古平さんが私に手を振ったので、私も小さくお辞儀をして2人を見送った。


『お疲れ様、今帰りか?』


「えっ、あ‥‥はい。菖蒲とご飯食べてました。筒井さんたちも遅くまでお仕事ご苦労様です。あと‥‥あのハンカチ洗ってお返ししますので、そのありがとうございました。」


会えると思わなかったので、休みに入る前にお礼が言えて良かった‥‥


『気にするな。もう家に帰るだけか?』

「あ、はい。駅に向かうところです。」

『‥‥じゃあ送ってく。』

「えっ!?い、いいです!電車ありますし、大丈夫ですから。」


17時に仕事が終わってご飯を食べていただけの私なんかはまだまだ余裕で電車で帰れる。


お辞儀をして頭を下げると、背を向けて歩いた瞬間に手首を掴まれて入り口付近のエレベーターホールに連れてこられてしまった



「つ、筒井さん、私帰れますから!」

『フッ‥‥泣かせたのは俺だし、第一そんな顔で帰らせられないだろ?』


えっ?


エレベーターが到着すると、掴まれていた手首は離されて背中にそっと手を添えられると勢いでそのまま一緒に乗ってしまった。


どうしよう‥‥今からでも断って電車で帰った方が‥‥


『どうぞ、乗って。』

「‥‥はい‥‥失礼します。」
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