玉響の花雫    壱
受付に影を落とされると、目の前に現れた八木さんに体が一気に強張るのが分かった


「‥お‥お疲れ様です‥‥あの‥‥‥何かご用でしたか?」


立ち上がりおじぎをしても、表情は険しいままで真っ直ぐ見るのも恐ろしくて視線を逸らす


帰宅する人達にもチラチラと見られてるし、用事があるなら早く要件だけ言って帰って欲しい‥‥


『ご用ですって?あなたが身の程知らずだから
教えてあげるわ?筒井さんに可愛がられてるつもりかもしれないけど、あの人は無理よ?お付き合いされてる方がいるんだから。』


‥‥えっ?


真っ赤な口紅を引いた唇がニヤリと笑うと小さな声で囁かれる。


『残念ね?そのうち会えるわよ?だから調子に乗らないことね。あと、次に告げ口したら許さないから。』


「‥‥‥‥痛ッ!!」


私の腕を掴まれると、長くて鋭い爪がグッと食い込み痛すぎて逃げると、そのまま長い爪に引っ掻かれ腕にジンワリと血が滲んだ


あまりの怖さに何も言えずに、そこから立ち去る八木さんを他所に、血がじんわりと滲む腕を慌ててハンカチで押さえる。


いけない‥‥制服が汚れてしまう‥‥。血液こそついたら落ちにくいし、大切な制服だから一旦着替えないと‥


パソコンを付けたまま離れるわけにはいかなくて、急いで電源を落とすと、やり残したことがないかを確認した


『お疲れ様‥‥って何?どうしたの!?血が出てるじゃん!』


「菖蒲‥大丈夫だから声を抑えて?あまりバレたくないんだ‥‥悪いんだけど、そこの扉の奥に救護室があるから、手当てだけ手伝って貰える?」


『うん、分かった。行くよ?』


人の動きが少なくなったのを見計らって菖蒲と走って移動をすると、救護室に2人で行った。


「やっぱり時間外だからもう誰もいないよね‥‥。」
 

『ちょっと、それよりどういうこと?どう見ても誰かにやられた傷だよね?霞は爪短いし。誰!?』


本当は言いたいけど、八木さんに次に告げ口したら許さないって言われたから首を横に振った。


『霞!!』

「ほんとに大丈夫。消毒して、止血だけ手伝って?服が汚れちゃうから、ね?お願い。」


思ったよりも深く食い込んでたのか5箇所の爪痕からは血がまだ出ていて、引っ掻き傷は血は出てないもののみみず腫れのようになっている。


告げ口なんてしてないのになんでこんなことに‥‥‥


目立たせたくなかったけど、範囲が広すぎて何枚も絆創膏を貼る方がおかしかったので、菖蒲が消毒をしてくれた後に、ガーゼでそこを押さえてから包帯を巻いてくれた。


「ありがとう、ごめんね帰るところだったのに。用事とかなかった?」


菖蒲はその後も帰らずに私服に着替え終わるまで待っててくれた


明日も仕事なのに申し訳なかったな‥


心配してくれてるのに何も言えなくてごめんね‥‥。菖蒲が来てくれて本当に良かった‥‥
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