玉響の花雫    壱
「あ、あの、結構です!
 電車で帰れないほどではないので。
 失礼します。」


これ以上筒井さんと居たくない。
心がそう叫んでしまう


『犬塚さんか古平に送ってもらう。
 倒れられたら迷惑だからな。』


ズキッ‥‥


もう嫌だ‥‥
腕だけじゃなく心までも痛くて堪らない


筒井さんが何処かに電話をかけてる
すきに走り出すと、名前を呼ばれた
気がしたけど振り返らずに駅まで
走ると電車に飛び乗った。


「はぁ‥はぁ‥」


もう今日は実家に帰ろう‥‥
マンションに来られても今は
こんな状態で話せないし
一旦落ち着かないと無理だ‥


冷たい声だった‥‥
いつもならもっと優しいのに、
迷惑だって言われてしまうなんて‥


スマホで母に帰ることを伝えると、
すぐに筒井さんから着信が来たのを
見ないふりをして鞄にしまった。


あの時動けなくなった私を
見ることもなく八木さんと
会議室に行ってしまった‥‥。


所詮私は大きな会社の部下の1人で、
実際には部署だって違うから、
話しかけてもらうことの方が
ないに等しいのかもしれない


キスなんかされて優しくされて
舞い上がってしまってたから、
またちゃんと気持ちを隠して
いかないともっとツラクなる。


何度もバイブ音が鳴り響くのも
ツラくて音を消すと、目から涙が
一筋溢れ落ちた。


『いつもは帰ってこないくせに
 突然帰るからなんて。急過ぎて
 ご飯も大したものないわよ?』


「うん、平気‥‥。
 あんまり食欲ないから。
 お風呂に入って来てもいい?」


お母さんのいつもの声にホッとして
泣きそうになるのを堪えると、
熱めのシャワーを一気に浴びた。


筒井さん‥呆れてるだろうな‥‥。
あまりにも何度もかかってくるので、
実家にいる事をメールすると
そこからは着信が途絶えた。


誰かの話し声がある家に帰ってきて
良かった‥‥‥。
亮さん‥‥やっぱり私には‥‥


ピンポーン


『はぁい‥‥誰かしら。』


お母さんが玄関の方へ向かった後も、
味が染みた肉じゃがの残りを
食べることもなく箸でつついていると、
バタバタと足音が聞こえてお母さんが
戻ってきた。


『霞!!あんた会社の上司の方が
 いらっしゃってるわよ!!
 早く行きなさい!
 お待たせしてるから。』


えっ!?


驚いた私は、勢いよく立ち上がると、
床に箸が落ちたことにも気にせず
そのままサンダルを履き玄関の外に
出た。


「ツッ‥‥‥蓮見さん!?
 ど、どうされさんですか?」


『よっ!霞ちゃん、お疲れさん。
 ごめんね?緊急を要したから
 上司の判断で個人IDの登録にあった
 実家にお邪魔してしまって。
 お母さん君にそっくりだね。』


筒井さんが?とも
思ったけどまさかの蓮見さんで
かなり驚いている‥‥。


「あの‥‥何かあったんですか?」
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