玉響の花雫    壱
蓮水さんが実家まで来るなんて、
仕事で何か重大なミスを
してしまったんだろうか?


パソコンは切ってきたはず‥‥
あとは何か連絡?それとも
郵便物を何か間違えたとか?
まさか‥‥クレーム‥‥‥


『うんにゃ?体調不良なのに
 1人で帰ったらしいから安否確認に
 行かされただけだから。』


えっ?あ、安否確認?



『ちょっとここだと話せないから、
 着替えて出て来れる?
 その‥俺はその服もいいと思うけど、
 なんか高校のジャージってさ‥‥
 いけないことしてる雰囲気に
 なるし‥‥人の目がね‥‥』


「ッ!!‥す、すみません!!
 慌ててたからこんな服装で。
 すぐ着替えて来ます!!」


突然帰って来たから着替えもなく、
妹の体操服を借りていたことなんて
気にもしてなくて、今更だけど
恥ずかしさでいっぱいになる。


『霞ちゃん大丈夫だよ。
 車で待ってるからゆっくり着替えて
 来てね?』


ああ‥‥なんでこんな格好を。
お母さんに服を借りれば
良かったかもしれないのに、
コスプレのような醜態に穴があったら
入りたくなる


「お母さんごめん、
 仕事の話みたいだから、
 ちょっと着替えて出てくる。」


『あらそう?ご飯は?』

「後でいいよ、ごめんね?」


会社に着て行った服に着替え直すと
急いでマンションの下までエレベーターで向かった。


『そんな走って来なくてもいいのに。
 はい乗って?』


筒井さんと同じように助手席のドアを
開けてくれるとお辞儀をしてから
車に乗らせて頂いた。


車種こそ違うけど、この外国車だって
ものすごく高い車だよね‥‥


蓮見さんはどれだけお金持ちなの?
別荘といいマンションといい、
本当にすごい人なのかもしれない‥‥。


『体調は大丈夫?』

「えっ?あ、はい‥‥大丈夫です。
 すみません、心配かけてしまって。
 でも、どうして蓮見さんが
 いらっしゃったんですか?」


ネクタイを緩める佐草をしながら
蓮見さんが私を見て小さく笑う。


『本当はここに来たかったヤツに
 頼まれたから‥かな。』


えっ?


『霞ちゃんさ、滉一の話を聞かずに
 帰っちゃったんでしょ?』


ドクン


聞かなったのもあるけれど、
聞きたくなかったの方が近い‥‥。
私が筒井さんに向き合えなくて
勝手に逃げたのだ。


『あのさ、社外だから話せないけど、
 最近の滉一、かぁなり頑張って
 動いてたと思うんだ。
 それがようやく目処がついたから
 真っ先に霞ちゃんに
 話に来たんじゃないのかな?』


「でも筒井さんは八木さんと‥ッ」


ここまで言いかけて口にしたことに
ハッとして口を押さえる。
私、蓮見さんに何を言うつもりで‥‥。
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