俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「どういう事ですか?」
「……俺は羽禾を裏切ってない」
「へ?」
「あの日……、彼女の父親に酒を勧められて結構飲んだんだ」
雅人は膝の上でぎゅっと手を握りしめ、羽禾に初めてあの夜の出来事を打ち明けた。
総務大臣である父親と共にスカイテレビの本社を訪れた数日後。
どこで連絡先を入手したのか分からないが、土屋専務本人から雅人の携帯に電話が来た。
『一席設けさせて欲しい』という申し出を断り切れず、渋々会食することになった。
政界では有名な政治一家の田崎は、こういう会食自体はよくある。
だから、適当に話を合わせて切り上げようと思っていたのだ。
けれど、目が覚めた雅人の隣りには、下着すら着けてない女性が横たわっていた。
しかも、自分自身も何も身に着けてなく、それどころか、着ていたはずの服がベッドの周りに散乱していた。
どこかで見たことがあるようなその女性。
昨夜の出来事が記憶にないと話すと泣き崩れる始末で。
事の次第を理解したのはそれから少しして、彼女に連れられて訪れた彼女の自宅で再会した、彼女の父親を目にした瞬間だった。
政治家としては弱点とも言える酒の弱さ。
雅人は酒が入ると、行為自体ができない体質。
だから、あの泥酔のような状態で女性とどうにかなるとは思えなかった。
記憶にない状態で、『絶対にない』とは言い切れず。
『責任を取ってくれ』と言われ、他にどうすることもできなかった。
父親の顔に泥を塗りたくなかったというのもがるが、政治家としての将来に傷がつくと思って、羽禾と別れる決断をした。