俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「今だから言うけど、本当はさ、瑛弦と付き合うの、反対だったんだよね」
「へ?」
「羽禾ちゃんも知っての通り、あいつは今まで誰にも心を許して来なかったから」
「……」
「羽禾ちゃんのことも、どうせ飽きたら捨てるだろうと思ってたんだ」
「……」
「もちろん、あいつには何度も釘を刺したよ?遊びで付き合っていい子じゃないって」
「……」
「だから、ワンチャン狙いでずっと羽禾ちゃんを見てるんだけどね♪」
「ホント、加賀谷さんって見た目と違って優しさの塊みたいな人ですよね」
「うわっ、ひっっどぉ~~い!俺は見た目も中身も完璧なのに~」

 重たい空気を彼の優しさで包み込まれた。

 彼はいつだってそうだ。
 そっと背中を押して貰えたり、ホッと和めるような空気感を醸し出している。
 ノリは軽いのに、誰に対しても気遣いの出来る人だ。
 
「俺ね、結婚したいな〜って思えた子がいたんだよね」
「え?」
「半同棲みたいな感じだったし、俺の両親にも愛想良くてさ」
「…はい」
「付き合い始めて3年が経った頃にプロポーズしたんだよね」
「っ…」
「彼女、何て言ったと思う?」
「え?」

 今独身という事は、その人とは上手くいかなかったということなのだろうから。
 プロポーズを断るとなると、一体どんな言葉だろう?と羽禾は必死に考えた。
すると。

「旦那がいるから結婚は無理、だって」
「……え?」
「3年だよ?3年…。3年もの間、週に何日も泊まりに来るような人に、旦那がいたんだよ」
「……」
「何で騙すようなことしたの?って聞いたらさ、何て言ったと思う?」
「……」
「顔が好みで、体の相性が良かったから……だって。俺の中身は関係ねーのかよっ!ってその時思ってさ。それからは軽い付き合いしかできなくて。……情けないでしょ」
「……全然、情けなくなんかないですよ。人の気持ちを踏みにじる、その人が完全に悪いじゃないですか」

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