バツイチとビッチと愛人と

六 泣きたい

六 泣きたい

 倉庫に放り込んであって理沙の荷物も、卓がレンタカーを借りて取り出しに行き、理沙の新しい部屋に運び込んでやっと理沙もパトロンとの関係から完全に決別することができた。
 三人の奇妙な同居生活がはじまって一ヶ月半が過ぎ、師走に突入して寒さが厳しくなりはじめた。
 理沙は徐々に卓に心を開くようになってきて、最近ではレナがいないときでも二人で自然に仲良く過ごせるようになってきた。

 いつもなら、夜十二時頃には帰ってくる理沙が、その日は一時近くなっても帰ってこない。
 心配になってレナが理沙に電話したら、もうタクシーで家に着くとこだという。
「ただいま」と理沙の声が玄関でした。
 元気がない感じの声だ。
「遅かったね」
 リビングで卓と飲んでいたレナが声をかける
 リビングに入ってきた理沙をみて驚くレナ。
 服は汚れて、胸のあたりには血がついてる感じで、右頬にパッドのようなものを当てて手で押さえていたのだ。
「どうしたの、それ!」
「うん、ちょっと客とトラブル。殴られてちょっと腫れちゃった」
 かなり痛そうな理沙。
 卓が理沙をかかえてソファに座らせる。
 水をもってきて理沙に渡すレナ。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
 水を飲み干す理沙。
「医者には行ったの?」
「ううん、まだ。店でとりあえず手当してもらった」
「着替えるか?」と卓が聞く
「もうちょっと落ち着くまでこのままで‥‥‥」と答える理沙。
 泣き腫らしたようで化粧は崩れ、目は赤くなっている。
「寒くないか?」
「大丈夫」
「ねえ、理沙、何があったの? 話して」
「うん、いつも私を指名してくれる上客がいるんだけど、そいつにアフターを強要されそうになったので、断ったの。すごく感情的になる奴で、あんまり関わりたくなかったんだけど、金持ちでお店にお金けっこう落としてくれるから。
でも今日はそいつ、機嫌悪い感じで酔って荒れ気味で、私が断ったらいきなり切れちゃって。男の顔色うかがって身体見せつけてもったいつけるくらいしか能がないクセにふざけんな、黙ってついてくりゃいいんだよ!って、頬を殴られたの‥‥‥」
「ひどい、あんまりじゃない!」
「すぐに店のスタッフが入ってくれてそいつを押さえて追い出してくれたんだけど、でも警察沙汰になると、私年齢ごまかしてるのがヤバいので、警察は呼ばないでもらって‥‥‥」
「もう悔しくて、情けなくって、なんで私こんなこと言われなきゃいけないんだって。これでも頑張っているのに‥‥‥」
 そう言って泣き崩れる理沙。
 理沙を抱き抱えながら慰めるレナ。
「アタシもくやしいよ‥‥‥」ともらい泣きしはじめる。
「頑張ったな、理沙はすごい頑張った、えらいよ理沙」と言いながら理佐の頭を優しく撫でる卓、
「おじさん、私どうしたらいいの? なんで私こんなひどい目に遭わないといけないの‥‥‥」
 卓を見上げて肩を震わせて泣く理沙。
 何も言えずに、ごめんな、と繰り返す卓。
 二人に抱かれながら理沙はそのまま泣き疲れて眠ってしまう。

「寝室に連れていってそのまま寝かしてあげよう」
 卓が理沙を抱き抱えて寝室のベッドに運んで寝かせる。
 レナがとりあえず着ている服を脱がせて下着だけにして、ベッドで布団をかけて部屋を暗くする。

「なんかやり切れないな、理沙、何も悪いことしてないのに‥‥‥。ホントに悔しいし頭に来る! 許せないよ!」
「全く身勝手な酷い奴が多すぎだろ!」と卓も憤慨している。
「とりあえず明日病院に連れていこう。保険証は持ってるのかな」
「起きたら聞いてみるけど、ないかもしれない、家飛び出したままだし。でも母親には連絡何度かしたみたいだからもしかしたら貰ってるかも。まあなければ、アタシの客に開業医のすけべドクターがいるから頼んでみるよ」
「今晩はそばで寝てあげな。俺はソファでいいから」
「いいよ、おじさんも一緒に三人で寝よう。理沙を挟んで」
「男の俺がいないほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫、理沙、おじさんのこと好きだから‥‥‥」
「えっ、そうか‥‥‥。わかった、じゃあウチらも休もうか」
「うん」

 理沙を挟んで三人で眠りにつく。
 明け方、理沙が目を覚ますと、自分の部屋じゃない、二人の寝室で寝ていることに気が付く。
 前にはレナが寝ていて、後ろを振り向くと卓がいて、卓が理沙が起きたのに気付いて目をあけた。
「大丈夫か、頬痛いか?」
 レナを起こさないように小声で聞く卓。
「うん、ちょっと。昨日はごめんなさい」
「理沙が謝ることは何もないだろう。被害者なんだから‥‥‥。やりきれなかったろうに」
 優しい笑顔を見せる卓。
「うん、キツかったの‥‥‥」
「よく頑張った」と理沙の頭をそっと撫でる卓。
「ねえ、おじさん、私のこと抱きしめてくれない?」
「えっ」
「うん、今ぎゅってしてもらいたいの」
「わかった」
 そう言って理沙を抱きしめる卓。
 小さな体でいっぱいに抱きついてくる理沙。
 まだ十八歳の少女なのに‥‥‥。
 理沙がたまらなく愛おしくなる卓。
「もう少しお休み、寝れば体も回復していくし」
「うん、このままでいい? すごく暖かくてほっとする」
「ああ、一緒に寝よう」
 そう言ってまた目を閉じる二人だった。
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