シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 彼⼥の勢いに颯⽃は笑って⾔う。

「わかった。じゃあ、今⽉末の⼟曜はどうだ? 装花のあとにでも」
「時間的には⼤丈夫なんですが、それなら⼀度家に帰って着替えたいです。といっても、⼤した服は持ってませんが」

 ⾼級そうな匂いのプンプンするケーキ屋に⾏くなら、綺麗めのファッションで臨みたいと思い、⼀花は⾔った。それに、颯⽃の隣に並ぶならなおさら、少しでも⾒た⽬を取り繕いたかった。

「それなら、颯⽃さん、今から⼀花さんとお買い物に⾏ったら? 着る服を買ってきて、ここに置いておいたらいいじゃない」
「ええっ!」
「それはいいな。さっそく恋⼈のふりもできる。どうだ? 時間はあるか?」
「でも……」
「恋⼈と認知してもらうために、ちょっとしたパーティーにも同⾏してほしいし、出歩くときの服を何着か買っておこう。あぁ、費⽤は気にしなくていい。必要経費と思ってもらえば」

 副社⻑の恋⼈なのに、みすぼらしい格好はできないということかと⼀花は理解した。
 しかし、パーティー会場の装花をしたことがあっても出席したことはない。彼女は気安く恋⼈役を引き受けるのではなかったと早くも後悔しはじめた。

(セレブの『⼀緒に出歩く』には、パーティーまで⼊ってるのね……!)

 ⾃分とは縁のない世界に連れていかれそうで、慄いた⼀花だったが、引き受けた以上、やるしかないと気合を⼊れた。
 そんな⼀花とは対照的に、貴和⼦はのほほんとしている。

「デート、楽しそうでいいわね。昇さんはゴルフばっかりでぜんぜん私の相⼿をしてくださらないから」

 藤河社⻑のことを⾔っているようだ。
 実際、⼀花がここに通うようになってからひと⽉以上経つが、未だに藤河社⻑と顔を合わせたことはない。
 趣味のゴルフに仕事上の付き合いで出かけていることが多いらしい。

「それじゃあ、貴和⼦さんもご⼀緒しませんか?」
「あら、だめよ。⼆⼈のデートなのに」

 服を買うなら⼥性の⽬が欲しいと思ったが、貴和⼦にあっさりと断られる。
 ふりなのに、と⼀花は苦笑した。
 でも、たしかに嫌がらせ犯にアピールするなら二人きりのほうがいいかもしれないと思い直す。

「遅くならないうちに出かけるか。君の⾞はいったんここに置いておいて、俺の⾞で⾏こう」

 颯⽃が⽴ち上がって、⼀花を⾒た。
 彼⼥に異論はなくうなずいた。
『Green Shower』とでかでかと⾞体に書いてある社⽤⾞に颯⽃を乗せるわけにはいかない。
 そもそもデートだと認識してもらえないと出かける意味がない。
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