シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
 ブティックを出たあと、颯⽃はすぐ近くのビルに入っている創作フレンチレストランに連れていってくれた。
『カジュアルなところだ』と颯斗は言っていたが、入口でシャンデリアが出迎えてくれる店構えは充分高級そうで、キレイめファッションにしていてよかったと思う。
 中に入ると、木のテーブルにオレンジの照明がビストロ風で、いわゆるフランス料理店ではなかったので、一花はほっと肩の力を抜いた。
 そして、癖で店内の装花をチェックする。
 ここにはドライフラワーと流木をアレンジした装花があって、アクセントに飾られているスターアニスや松ぼっくりが秋の風情を醸し出していた。

(素敵だわ。こういう使い方もありね)

 今度は花以外のものを多めに使ってみようかと頭の中のスケッチブックにデザインを描いてみる。
 研究熱心な一花を邪魔することなく、颯斗は見守ってくれていた。
 店員にメニューを渡されて、我に返った彼女はその金額を見て、冷や汗をかく。
 ランチは三種類のコースしかなく、上から一万五千円、一万円、六千円だった。

(お昼から六千円!? ちっともカジュアルじゃないけど?)
 
 上二つは肉も魚もあるコースで、一番安いのはどちらかを選ぶものになっていたので、一花は
それを理由にして六千円のコースを選ぶことにする。
 
「お肉も魚もあると食べきれないので、私は一番下のコースでいいです」
「そうか。なら、俺もそれにしよう」
 
 颯斗が店員を呼び、オーダーしてくれた。
 痛い出費だとは思ったが、こういう素敵な店の装花や料理を経験することも勉強になると一花は頭を切り替えて、楽しむことにした。
 料理は前菜も肉料理もすべて美味しかったが、とりわけオマール海老のビスクが絶品で、一花は幸せな気分になって頬が緩んでしまう。
 昼から食べるのにはボリュームがあったが、デザートのガトーショコラのアイス添えまでしっかり完⾷した。
 一花はちゃんと自分の分を払うつもりでいたのに、食事が終わると、颯斗はさっと伝票を取り上げて支払ってしまう。
 店を出てから彼女は財布を取り出し言った。

「颯斗さん、払います」

 いたって普通のことを言ったつもりなのに、彼は驚いた顔をして、一花を見た。おごるのが当たり前だと思っていたようだ。
 案の定、颯斗は首を横に振った。

「いや、俺が誘ったんだから、俺が払うよ」
「でも……」
「払わせてもらえないと、俺の行きたいところに気軽に誘えなくなる。それにこれは”恋人のふり”の一環でもあるから、気にしないでおごられてくれ」

 引き下がらなさそうな一花に対して、颯斗は説得するように畳みかけてくる。
 そう言われてみれば、彼女のレベルに合わせると、彼の贔屓にしている店に行けなくなってしまうに違いない。
 なおかつ、偽装のためのデートだからまた必要経費だと言いたいのだろう。

(”ふり”の一環ね……)

 一花は腑に落ちたものの、なぜかがっかりしている自分に気づき、不思議に思った。
 美味しい食事に高揚していた気分が少ししぼんだような気がする。
 それでも、言い張る話ではないので、大人しく引き下がってお礼を言った。
 
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