シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「わっ」

 服装に合わせて下していた髪の⽑が⾵で舞い上がり、⼀花は声を上げた。
 慌てて⼿で髪をまとめる。
 オープンカーだから、まともに⾵を受けてしまうのだ。

「あぁ、悪い。ルーフを閉めようか?」
「いいえ、⼤丈夫です。せっかく気持ちいいから、このままで」

 オープンカーなんて初めて乗ったが、颯⽃の⾔う通り、快晴の今⽇は⾵が⼼地よく、この⾞が合っている。
 ⼀花は吹き抜ける⾵に⽬を細めた。

「⾵でヘアスタイルが乱れると嫌がる⼥性が多いんだがな」
「こんなにさわやかなのにもったいない。髪なんてくくればいいんです」

 そう⾔って、⼀花はシュシュで髪をまとめた。
 そんな彼⼥を横⽬で⾒た颯⽃はくくっと笑い、おくれ⽑を指にとって⼀花の⽿にかけた。
 驚いて彼を⾒るが、颯⽃は⾃分の⾏動をなんとも思っていないようで、⼝元に笑みをたたえながら前を向いている。

(こんな素敵な⼈なんだから、何⼈も隣に⼥性を乗せたことがあるんでしょうね)

 恋⼈に対するしぐさがつい出てしまったのだろうと⼀花は思った。
 それか、恋⼈設定の演技の⼀環だと思って、早くなった⿎動を鎮めようとする。
 嫌がらせ犯がこれを⾒ていたら、完全に⼆⼈は付き合っていると思うだろう。
 それほど颯⽃の演技は⾃然だった。

(今までどんな⼈がここに座ったんだろう?)

 ふと考えた⼀花の胸の奥がなぜだかちくりと痛んだ。
 自分には関係ないことだと意識を流れる景色に集中した。


 道路は混むこともなくドライブは順調で、さわやかな⾵を感じながら⼀時間半で葉⼭近くに来た。
 ただ、残念ながら⽬的地に近づくほどに空に雲が多くなってくる。しかも、黒い雲だ。

「⼀⾬来そうだな。ルーフを閉めておこうか」

 颯⽃がつぶやいた瞬間、ぽつりと⼀花の頬に⽔滴が当たった。
 彼⼥が⾬と認識する前に、どっと⾬が降り始める。
 ゲリラ豪⾬だ。

「わわっ!」

 滝のような⾬に打たれて⼀花が悲鳴を上げる。
 颯⽃がルーフを操作しているが、屋根が閉まっている間に⼆⼈はびしょぬれになってしまった。
 ウインカーを出して、颯⽃が⾞を路肩に停める。

「すまない。この⾞は性能も外⾒もとても気に⼊っているのだが、ルーフの開閉速度だけが他の⾞種より劣るんだ……」

 ハンカチで⼀花の顔を拭きながら、颯⽃がマニアックな⾔い訳を⼝にする。
 ⾃分も濡れて⽔が滴っているのに、それにはかまわず、本当にすまなそうな顔をしている。

「ふっ……ふふっ、あはは! まさに⽔も滴るいい男ですね!」

 笑いがこみあげてきた⼀花は爆笑しながら、お返しに颯⽃の顔をハンカチで拭いてあげた。
 びしょぬれで⾼級⾞の中にいる⾃分たちの姿がおかしくて、笑いが⽌まらない。
 明るい笑い声に、ほっとしたような颯⽃も表情を緩める。

「君も⽔も滴るいい⼥だよ。そういうところ好きだな」

 颯⽃も軽⼝をたたき、スーッと⼀花の頬をなでる。

(す、好き?)

 跳ね上がった⼼臓を抑えようとしながら、⼀花は颯⽃をまじまじと⾒つめた。
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