傾国の貴妃
「――フンガッ…!」


やっと目と目が合った、その瞬間。


「阿呆ローラ」


鼻を思い切り摘まれた私は、情けない、言葉にもならないような声を発する。

それでも、摘まれた鼻はそのまま。

エメラルドグリーンの瞳の奥に、怒りと呆れとを含む、なんとも形容しがたい光が見えた。

抵抗も虚しく、為すがまま。


「バーカ」


涙目で睨み付ける私を鼻で笑って、ギルはようやく私の鼻から手を離した。

…と、思った瞬間。


「――へ?」


気が付いたら、私たちの間に距離なんてなくて。

背中に回った手が、強く強く私を求めるかのように、その距離をさらに限りなくゼロへと近付ける。

とくんとくん。

一定のリズムを刻んでいたはずの心臓は、もう決壊寸前。

私はギルの腕の中にいた。
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