父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
「男性として意識してもらえたら嬉しいって。あ、あのですね、少しずつで良いからって。だから、当時としては今すぐじゃないと言うことでした」
 どうすればいいの?

 こんな無関心な人に話してしまったよ。

「あぁ、あの何回目かのデートのときか」
「デートじゃないですよ」

「年ごろの男と女が二人きりで出かけたらデートだろうが」
「ないないないない、ないです」

「伊乃里にその気はなくても羽吹さんは毎回デートの気だった」 

 そんなもんかね。

「特別美人でもなければスタイルが良いわけでもないですし」

「そんなことないよ待ちか? 言わないし否定しないから、話を続けろ」

 この汚い口には慣れている。一応、話を聞いてはいるんだ。

「むしろ私と真逆なんです。だから、羽吹副院長の隣に並ぶと見劣りしてしまって不釣り合いなんです」

 口をはさませない勢いで言葉が一気に出てくる。

「代々獣医師の家系。しかも資産家の大規模医療センターの羽吹副院長が、どうしてその他大勢の女医の私なのかと」

 しかも三年ぶりの連絡。頭の上を疑問符が飛び交う。

 あっ、戸根院長が鼻先に人差し指をあてて擦っている。また細かいことを考えているんだな。

「どうしたらいいんだ」
 なんだかんだ言っても戸根院長優しいじゃん。

 羽吹副院長と私のことを真剣に考えてくれているんだ。

「紅しょうがの汁。どうやったらシミを落とせるんだ、なにが必要なんだ」

 考え込んでいたのは、さっきの紅しょうがのことかい。
 私より紅しょうがの染み抜きの方が大事なのか。

「真剣に聞いてくださいよ」
「聞いている」
「私にアドバイス出来るくらい」
「あぁ、出来る出来る」
 本当に?
 返事が軽いんだけれど。

「私は、ずっと町の動物病院で働きたかったんです。戸根動物病院は地域住民のかかりつけ医の役割を果たしている動物病院。まさに理想の地なんです」

「で?」
 そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとうとか、来てくれて助かっているよとかって言葉はないのかい。

「羽吹副院長とは歩む道が違います、以上」
「ずいぶんと付き合いたくない言い訳を並べたな」
 私は無自覚に言い訳を?
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