父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
第四章 騙され襲われ危機回避能力0女の末路
正月気分も過去のものとなった一月半ば。
今日は東京国際会議場をほぼ貸し切って学会が開かれる。
普段の学会やセミナーと違って全国の獣医師が千人規模で集結する。
学会やセミナーは普通に正装で行くんでしょって聞かれるけれど、実際はキャンプに行くようなラフな服装で参加している。
全国規模の学会だから、さすがに会場を見渡すと獣医師の九十九パーセントは気合を入れてスーツで参加している。
いつもなら発表者側だけれど聴講のみで参加。自分が研究発表をしなくても色々な研究や考え方を聴けるのは興味深い。
あまり興味がない発表者でも一応聴いておくと、後々なにか使えるかもしれないしね。
そういうところは貪欲にいかなきゃ。
発表者に与えられる時間は十五分。その後の質問受付で五分、合わせて二十分 。
今はほとんどがスライドを使っての発表だから、ひとつのスライドの説明は約一分として、だいだい十ニ、三枚あたりで発表しなくてはならない。
発表の制限時間にスライドの枚数にスライドの説明の時間。
スライドでやるときの、この数々の制限に自分の研究を収めるのが大変。
質問されそうなことをあらかじめ予測して、返答を用意しておかなくちゃだし。
そうは言っても自分の研究したことを大勢の人びとに向かって説明するのは気持ちが良い。
全員の視線が私ひとりに熱心に注がれて、集中して聴いてもらえるのは嬉しい。
もっともっと私の研究の成果を聴いてほしいってなる。
そして、発表が終われば興味を引かれる発表者や技術を教わりたい発表者や共感した発表者には、声をかけに行き交流を図る。
迷い悩み、どうにも解決しない症例を初対面の獣医師に、自分から懐に飛び込み体当たりで質問させてもらったりもする。
要は人脈作りの場でもある。獣医師はコミュニケーション能力がないと勤まらないことは学会やセミナーに参加すると実感する。
あとは同期や先輩獣医師や教授に、ばったり会えるのも楽しみ。
学会が終了して人の波が続々とロビーへ溢れ出して行き、ワックスで磨き上げられた黄金色に輝き艶々している廊下には大勢の不規則な足音が擦れるように聞こえる。
その中でも、さっきからコツコツカツカツとハイヒールの音が鳴り響くのが耳に残るように入って来る。
ようやく人の波がまばらになって、ゆったりゆっくりと歩ける。
毎日、けたたましく走り回っているのも疲れるといえば疲れるけれど、この人の波の中を止まっちゃ歩いて止まっちゃ歩いての繰り返しでトボトボ歩くのは、もっと疲れる。
歩くなら、さっさと歩きたい。
「恐れ入りますが、もしかしたら伊乃里紗月先生ではないでしょうか?」
これだけ人が居れば知り合いは何人かいるだろう。
でも、まったく聞き覚えのない男性の声。
高くて優しそうな中性的な声は穏やかで良いけれど、突然の声がけに本能的に不信感を抱きながら恐るおそる首だけ振り向いてみた。
今日は東京国際会議場をほぼ貸し切って学会が開かれる。
普段の学会やセミナーと違って全国の獣医師が千人規模で集結する。
学会やセミナーは普通に正装で行くんでしょって聞かれるけれど、実際はキャンプに行くようなラフな服装で参加している。
全国規模の学会だから、さすがに会場を見渡すと獣医師の九十九パーセントは気合を入れてスーツで参加している。
いつもなら発表者側だけれど聴講のみで参加。自分が研究発表をしなくても色々な研究や考え方を聴けるのは興味深い。
あまり興味がない発表者でも一応聴いておくと、後々なにか使えるかもしれないしね。
そういうところは貪欲にいかなきゃ。
発表者に与えられる時間は十五分。その後の質問受付で五分、合わせて二十分 。
今はほとんどがスライドを使っての発表だから、ひとつのスライドの説明は約一分として、だいだい十ニ、三枚あたりで発表しなくてはならない。
発表の制限時間にスライドの枚数にスライドの説明の時間。
スライドでやるときの、この数々の制限に自分の研究を収めるのが大変。
質問されそうなことをあらかじめ予測して、返答を用意しておかなくちゃだし。
そうは言っても自分の研究したことを大勢の人びとに向かって説明するのは気持ちが良い。
全員の視線が私ひとりに熱心に注がれて、集中して聴いてもらえるのは嬉しい。
もっともっと私の研究の成果を聴いてほしいってなる。
そして、発表が終われば興味を引かれる発表者や技術を教わりたい発表者や共感した発表者には、声をかけに行き交流を図る。
迷い悩み、どうにも解決しない症例を初対面の獣医師に、自分から懐に飛び込み体当たりで質問させてもらったりもする。
要は人脈作りの場でもある。獣医師はコミュニケーション能力がないと勤まらないことは学会やセミナーに参加すると実感する。
あとは同期や先輩獣医師や教授に、ばったり会えるのも楽しみ。
学会が終了して人の波が続々とロビーへ溢れ出して行き、ワックスで磨き上げられた黄金色に輝き艶々している廊下には大勢の不規則な足音が擦れるように聞こえる。
その中でも、さっきからコツコツカツカツとハイヒールの音が鳴り響くのが耳に残るように入って来る。
ようやく人の波がまばらになって、ゆったりゆっくりと歩ける。
毎日、けたたましく走り回っているのも疲れるといえば疲れるけれど、この人の波の中を止まっちゃ歩いて止まっちゃ歩いての繰り返しでトボトボ歩くのは、もっと疲れる。
歩くなら、さっさと歩きたい。
「恐れ入りますが、もしかしたら伊乃里紗月先生ではないでしょうか?」
これだけ人が居れば知り合いは何人かいるだろう。
でも、まったく聞き覚えのない男性の声。
高くて優しそうな中性的な声は穏やかで良いけれど、突然の声がけに本能的に不信感を抱きながら恐るおそる首だけ振り向いてみた。