父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
第二章 女は棄てて生きている
「汚い、このデスクの上のガラクタの山はなんだ?」
「ちょっ、触らないでください!」
「こんな汚いデスク触るか、今すぐに片付けろ」
「このままでいいんです、どこになにがあるか分かるんです」
「言い方が違う、どこになにが埋もれているか分かるだろ?」
「どっちでもいいですよ、とにかく触らないでください!」
「頼まれても触るか」
寒々とした十一月の今の季節みたいな冷ややかな目で馬鹿にするように眺めて、いちゃもんをつけてくる、この変人に私はもう慣れた。
羽吹と名垣と二つの医療センターを退職後、戸根動物病院に入職して一年。
羽吹と名垣の医療センターで研修医として教わった経験を活かした医療を心がけ、地域に密着してる町の動物病院に捧げたかった夢を四年かけてようやくここで叶えた。
羽吹副院長とは、あれから進展することはなく連絡も途絶えたまま二年の歳月が流れた。
「おい」
そう私を呼び、さっきから片付けろと口うるさく言う男は戸根 祐希。
お坊ちゃま私大の獣医学部の頃から敏腕院長やエリート獣医師から、うちで採るなら戸根 祐希と言わしめるほどだった。
そう、こここそが私が夢を叶えた戸根動物病院。
「おい」
しつっこいな。
「おいと呼ばれて、はいと返事をするような、そんな古い時代じゃないんですよ」
「アレくれ」
またか。
綿棒でパソコンのキーボードを掘りほりするんだ。
「さあ、自分で取りましょう」
その持て余す長い手足を使って取れと戸根院長を促す私に、そうそう言うことをきく男ではない。
「おいだ、アレだって命令したいなら、もう32にもなるんですから、早くお嫁さんもらったらいかがですか?」
「年齢で結婚しろと? そんな古い時代じゃない」
頭の回転の早さと賢さと口のうまさをフルに使い、仕返しをする戸根院長のことをサバサバしていない奴だと、うざったく感じる。
外科だから外科同士、自分みたいに大雑把でカラッとしたタイプだろうと思っていた私からしたら、脳神経外科である戸根院長は変わり者で気分屋で細かくて神経質で嫌気がさす。
命令口調だったり、おいと呼び付けてみたり現代社会に迷い込んだ化石人みたいな奴だけれど良い。
見た目だけは。
涼し気な目もとに筋のよく通った鼻に、キュッと上がって引き締まっている口角。
黒髪はサラサラしていて、その日の気分によって上げたり下ろしたりしている。
ずいぶん印象が変わるから、お年寄りや小さなお子さまは分からないことがある。
髪型ひとつでも気分屋を発揮している。
身長は患畜のグレートデンが立ち上がった際、戸根院長の肩に前肢を置いたら少し戸根院長の方が高かったから186cmくらいはありそうだ。
その辺で、しょっちゅう頭をぶつけては『イテっ』と聞こえてくる。
165cmの世界で生きている私には未知の世界。
「あの、毎度のお取り込みところすみませんが診療お願いします」
二人のギスギスの棘をマイペースにゆっくりと抜くのは、アニテクの川見 梨奈ちゃん。
「はい、行こ行こ。私、入ります」
梨奈ちゃんを従え、歩きながら頭の中に患畜の情報を入れまくる。
「ちょっ、触らないでください!」
「こんな汚いデスク触るか、今すぐに片付けろ」
「このままでいいんです、どこになにがあるか分かるんです」
「言い方が違う、どこになにが埋もれているか分かるだろ?」
「どっちでもいいですよ、とにかく触らないでください!」
「頼まれても触るか」
寒々とした十一月の今の季節みたいな冷ややかな目で馬鹿にするように眺めて、いちゃもんをつけてくる、この変人に私はもう慣れた。
羽吹と名垣と二つの医療センターを退職後、戸根動物病院に入職して一年。
羽吹と名垣の医療センターで研修医として教わった経験を活かした医療を心がけ、地域に密着してる町の動物病院に捧げたかった夢を四年かけてようやくここで叶えた。
羽吹副院長とは、あれから進展することはなく連絡も途絶えたまま二年の歳月が流れた。
「おい」
そう私を呼び、さっきから片付けろと口うるさく言う男は戸根 祐希。
お坊ちゃま私大の獣医学部の頃から敏腕院長やエリート獣医師から、うちで採るなら戸根 祐希と言わしめるほどだった。
そう、こここそが私が夢を叶えた戸根動物病院。
「おい」
しつっこいな。
「おいと呼ばれて、はいと返事をするような、そんな古い時代じゃないんですよ」
「アレくれ」
またか。
綿棒でパソコンのキーボードを掘りほりするんだ。
「さあ、自分で取りましょう」
その持て余す長い手足を使って取れと戸根院長を促す私に、そうそう言うことをきく男ではない。
「おいだ、アレだって命令したいなら、もう32にもなるんですから、早くお嫁さんもらったらいかがですか?」
「年齢で結婚しろと? そんな古い時代じゃない」
頭の回転の早さと賢さと口のうまさをフルに使い、仕返しをする戸根院長のことをサバサバしていない奴だと、うざったく感じる。
外科だから外科同士、自分みたいに大雑把でカラッとしたタイプだろうと思っていた私からしたら、脳神経外科である戸根院長は変わり者で気分屋で細かくて神経質で嫌気がさす。
命令口調だったり、おいと呼び付けてみたり現代社会に迷い込んだ化石人みたいな奴だけれど良い。
見た目だけは。
涼し気な目もとに筋のよく通った鼻に、キュッと上がって引き締まっている口角。
黒髪はサラサラしていて、その日の気分によって上げたり下ろしたりしている。
ずいぶん印象が変わるから、お年寄りや小さなお子さまは分からないことがある。
髪型ひとつでも気分屋を発揮している。
身長は患畜のグレートデンが立ち上がった際、戸根院長の肩に前肢を置いたら少し戸根院長の方が高かったから186cmくらいはありそうだ。
その辺で、しょっちゅう頭をぶつけては『イテっ』と聞こえてくる。
165cmの世界で生きている私には未知の世界。
「あの、毎度のお取り込みところすみませんが診療お願いします」
二人のギスギスの棘をマイペースにゆっくりと抜くのは、アニテクの川見 梨奈ちゃん。
「はい、行こ行こ。私、入ります」
梨奈ちゃんを従え、歩きながら頭の中に患畜の情報を入れまくる。