朱の悪魔×お嬢様
 美玖は凜の顔を正面から見れず、視線を床へと落とした。

 数秒の間ずっと床を見つめ、呼吸をもままならない緊張が身体を拘束する。

 凜は美玖の返答を静かに待つことにした。

 気まずい沈黙が降りる中、やがて意を決したように美玖の口が開かれる。

「凜さん…本家に来てくれませんか?」

「本家?」

 こくりと小さく頷いた美玖。

 本家―――以前、少しだけ話に出てきた、美玖を怯えさせる存在。

「そこ、で…話します」

 途切れ途切れのか細く震える声。

 今、美玖は何に対して怯えているのだろうか?

 事実を話すこと?

 その『本家』という存在?

 それとも―――…それとも、なんだと言うのだろうか?

 自分で考えときながら“それとも”の意味が分からなくなる。

 自分は何を示そうとしたのか、自分のことなのに分からなかった。

 そんなハッキリしない思考に苛立ちよりも呆れている自分がいることは確かだが。

「…分かったわ。そこで聞きましょう」

 凜はやがて短くそう承諾すると部屋を静かに出て行った。

 部屋の中に一人、複雑な表情をしている少女を残して。
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