朱の悪魔×お嬢様
 今回の事件の被害者はまあまあ大きい企業の社長宅だったらしい。

 なるほど。この写真に写っているのは多くの執事やメイド、社長の家族や社長自身の死体という事か。

(そういえば、紅い悪魔って何で大企業とかを狙うのかしら…まぁ、考えても分からないけどね)

 前回は政治家の家だったし、その前は貴婦人宅だったっけ?

 普通の民家でも何でも、殺すのなら何処でもいいはずだ。

 なのに何故か紅い悪魔はわざわざ警備の強い大企業や偉いところを集中的に狙う。
 
 スリルでも求めているのだろうか?

(それにしても、偉いくせに警備は随分と手薄なのね~)

 女性は同情よりも先に呆れがきた。そもそも、この女性に限っては『同情』という感情は確実に無い。

 それに、他人事のように考えているが、この女性も決して他人事ではなく、ましてやそんな事を言える立場ではない。

 この女性の名前は『羽須美凜(はすみりん)』

 母親はもともと身体が弱く、凜を産んだ時に他界してしまった。

 そして父親は分野を問わず色々な経営をしており、つまり、凜はどこでも顔が利くお嬢様だ。

 なのに警備員は少なく、かといって特別なカラクリを屋敷に仕掛けているわけでも当然ない、かなりの無防備状態だ。

 が、この羽須美財閥に手を出すものは絶対にいない。

 もし仮に手を出したら、きっと大変な事になるからである。

 父親は絶対に犯人を国外追放にしてしてしまう。それが例え、どんなお偉い人でも。

 しかも、母親がいない代わりということか、かなりの親バカときて凜にもしものことがあったら、自衛隊でも何でも引っ張り出してきて、絶対に見つけ出し、殺しかねない。

 という訳で何にもしなくてもかなりの威圧感だ。

 凜は新聞を執事に返すと、溜め息を吐きながらベッドから出る。

 足から冷んやりと冷たい空気が身体にまとわりついた。

 春とは言え朝はまだまだ肌寒い。

 カーディガンをはおり、そして執事と一緒に凜は部屋を出て行った。

 今日は久しぶりに父様が家に帰ってくる日だ、とふと思い出し口元に笑みを浮かべる。



 これから起こる悲劇には気付かずに。


 滅びへの針がゆっくりと動き出す。


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