隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。
「はあ……、これで誤解は解けましたか?」
ようやく機嫌が直りかけていた坂本くんは、しかし、私の問いかけを聞いた途端、顔から感情がスンっと抜け落ちました。
「まだ」
「……まだあるんですか」
「白波瀬くんとお揃いのキーホルダーにしてた」
「キーホルダー?」
いよいよ身に覚えのないことで、痛くない腹をつつかれ始めました。
「あとスルーしそうになったけど、さっき白波瀬くんのこと、至くんって呼ぼうとしてたやろ。聞き逃さんで」
何でこんなところで目敏いんでしょう、このひと。
坂本くんの機嫌は直るどころか、さらに暗雲立ち込めていきます。
不貞腐れたようにプイッとそっぽを向き、一言呟きました。
「……倉橋さんの浮気者」
言うに事を欠いて浮気者とは、心外です。
純粋にお祭りに誘ってくれた坂本くんを邪険に扱ってしまったことは、私が悪かったと思っています。それは認めます。
しかし、後半の方はほとんど不可抗力というか、私悪くない気がするのですが。
……ですが、そんなことを言ったら、坂本くんの機嫌をさらに損ねることになるのは明らかです。
私は言葉をぐっと飲み込み、努めて優しい声色で話しかけます。
「白波瀬くんとは、坂本くんが想像するような仲じゃないです」
「ふん。どうだか」
頬の膨らんだ横顔はまるで、フグのようです。
「だから、ただの幼馴染です」
「ただの幼馴染、ね」
意味深な言葉を残して、再び沈黙が訪れたと思ったら──、私の左手に熱い何が触れます。
それは強引に私の手を引きました。私の体はバランスを崩して、彼の胸に飛び込んでしまいます。
私を受け止めた坂本くんは、掴んだ手を自分の頬に擦り寄せて、きゅっと目を細めました。
その瞳は、自分がどこまでを許るされるのか、試しているかのようで。