隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。
「怪我の具合を見たいので、ジャージ脱いでください」
「い、嫌や」
ふるふると頭を振るオオアリクイ。
「いや、もうそういうのいいので。さっさと脱いでください」
「…………、えっち」
「……(イラッ)」
「ちょお待って! 無理に引っ張らんで!」
ジャージを引っ張った拍子にぽんっと坂本くんの顔を飛び出てきます。
「キャーーーーッ!」
「うるさっ」
坂本くんは女子みたいな悲鳴を上げ、両手で顔を覆い隠すとすぐさま後ろを向いてしまいました。
丸まった背中を見ていると、まるで私が坂本くんをセクハラしたみたいな構図に、思わず現実逃避に走りそうです。ただ怪我の治療をするためなのですが。
ふつふつと胸の奥から怒りが湧いてきます。
そもそも坂本くんがこうなった原因は、私が坂本くんの昔の女に似ているからなのです。
あれでしょうか、私の顔を見るたび、キヨコとの昔の思い出が胸に刺さって切なさがこみあげてくるからとかでしょうか。いや、知らんがな。
要するに、なんかムカつきます。
目の前にいる私と、昔の女を重ね合わせられることが、無性に腹が立ちます。
もうこうなったら下手な芝居を打つしかありません。
「……痛」
ぴくっと、坂本くんの肩が跳ねます。
私は左目を抑えて、それっぽく見えるように俯きました。
「目にゴミが」
「……だ、大丈夫? 目ぇ見して?」
馬鹿な奴です。まんまと引っかかりました。
心配そうにこちらの様子を伺う彼の、おろおろさせていた両手首をバシッと掴みます。
「はい。捕獲」
久々に坂本くんの顔を見ました。
真正面で向き合った坂本くんは、目をまんまるに見開いて、ぱちぱちと何度か瞬きをします。