隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。

 「……えっ、キヨコさんって誰?」

 坂本くんは、全く心当たりがないのかキョトンとしています。

 「……」
 「……えっ……誰……?」
 「……」
 「ご、ごめんて。睨まんでよ」
 「睨んでないです」
 「ほんまにごめん心当たりなくて……キヨコ……」
 「……自分が言ったんじゃないですか。倉橋さんを初めて見た時、キヨコの生き写しかと思ったって」
 「……あ! あ〜〜そのキヨコか!」

 ぽん、と手を叩く坂本くん。
 勝手に1人で解決して納得しています。

 「そうそう。めっちゃ似とるんよなー、倉橋さんとキヨコ! キヨコも初めて会った時から警戒心バリバリでな。ちょっと触ったら引っかかれたし」
 「……(意外と凶暴だなキヨコ)」
 「でもちょっとずつ慣れてきてからは、ほんのたまーに向こうから甘えてくれたんよ。それがほんまに可愛くて可愛くてな〜。まあ、それで構いすぎると怒られるんやけど」
 「……」
 「ずっと一緒やったから、キヨコが居なくなったんは、やっぱ寂しかったなぁ」
 「キヨコさんは、もう……その、」

 坂本くんの口調からして、おそらくキヨコさんは……。
 私が途中で口籠もると、坂本くんは哀愁を含ませたよ柔い笑みを浮かべます。

 「うん。キヨコが15才の時やった」
 「……そうですか。すいません、不躾にこんな事聞いて」
 「ううん、全然。まあ、人間で言うたら80才くらいやから……もうおばあちゃんやもん長生きしてくれたで」
 「そうですか……人間だったらおばあちゃんだったんですね……。……え?」
 「え?」

 人間、だったら?

 私は自分で口にした言葉の意味を噛み砕くことができず、坂本くんの顔をじっと見つめます。

 すると、先ほどまで引いていた赤みがじわじわと戻っていきます。リトマス試験紙みたいです。

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