騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
「我が国とこの国との友好関係をより強固とするための国際結婚、でしたでしょう。それなのに、これではこちらが困ります」
「……」
確かに、噂ではあったけれど私は先輩からそう聞いた。だから、こんな事をしてもいいのかと思っていた。
恐る恐る陛下に視線を送ると、何故か陛下が第三王女に向ける視線が……冷ややかなものに見えた。そして、それを向けられた彼女は、たじろいでいるように見える。
「だがそれは、そちらがその気であるならば、という事が大前提だ」
「っ……」
「そちらの国王は人選を見誤ったな。王族の血を引いているとはいえ、教育が足りなかったようだ。それであるなら、やはり我が国の軍事力を管理するロドリエス侯爵に見合う相手は〝テレシア〟であると見えるな」
こんなに緊張感が漂っていたのに、一瞬にしてぴたりと空気が止まった。今、陛下は〝テレシア〟と言った? 陛下が、テレシアと?
「そういえば、お主の兄はどうしたのだ?」
「そ、れは……我が国の国王陛下に、いち早く帰国するようにと……」
「ほぉ、一体何日ぶりの帰国なのだろうな」
「っ……」
「何故そこまで早く戻されたか、ご存じかな?」
だんだんと、王女殿下の顔色が悪くなってくる。ドレスのスカートを両手で握りしめ、カタカタと身体が震えている。
一体、今の会話の中で何が彼女をそこまで追い詰めたのだろうか。もしかして、あの潜入捜査で捕らえた外国人商人と王女殿下も関わりがあったのだろうか。
「そちらの国王に伝えよ。返事を楽しみに待っている、と」
「は、ぃ……」
今にも泣き出しそうな王女殿下は、失礼しますと下がりメイドに支えられ会場を出た。
状況を飲み込めていない周りの貴族達はざわざわと騒ぎ始めている。
そして、隣に立つ団長様は耳打ちで教えてくれた。
偶然ではありつつも、あの仮面舞踏会の主催者のスポンサーでもあった隣国の第二王子を見つける事が出来たことは手柄だったと。そして、お酒の件もそう。あれは一年前から全く出回らなくなったお酒であり、外国人商人がその件に関わっていたという事が分かった。
他にも証拠があったらしく、第二王子につながったようだ。
私があのお酒をもらったのは入団して一年目の頃。私とデカルド団長、そして女子寮の子達はだいぶありがたいものを飲んでしまっていたという事になるな。
だから私は手柄を立てたという事になったらしい。でも偶然が重なっただけなのだから、これが本当に手柄になるのかは分からない。けれど、褒められたのならありがたく受け取っておこう。
けれど、それよりも今の状況が全く飲み込めていない。
「テレシア、私の方からもマーフィス男爵に文を出そう。いや、もう首都の手前まで来ているやもしれないな」
「……」
「あらあら、陛下、テレシアさんが驚いていますわよ」
全く、本当に、全くもって何故陛下方が私をテレシアと呼んでいらっしゃるのかが全く分からず、何を言えばいいのか分からない。これはだいぶ失礼なことではあると自分でも十分理解しているけれど……一体どう答えたらいいのか分からない。
……何故?