騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
「で」
「はっはいっ! こちらですっ!」
そこで待っていろ、と言いつつ全くこちらを見ない彼は、私が机に置いた資料を手に取りパラパラとめくり始めた。
渡せば帰れると思ったのに待っていろと言われてしまえばここに立っている事しか出来ない。入った瞬間から冷気を感じてしまって寒すぎる。早くここから立ち去りたい。
けれど、ここにいた他の人達が知らず知らずに居なくなってる。もしかして、私を置いて逃げたか。
「……あぁ、確認した。この件に関しては許可するとデカルド団長に伝えてくれ。……いや、私の方から伝えておく」
「はいっ! では失礼いたしますっ!」
身体をくるっと180度回転させ、速足ですぐに立ち去ろうとした。さっさとここを離れて警備に戻ろう。きっと先輩達がお待ちかねだ。
そう思っていたのに、おかしい。足が止まってしまった。いや、止められてしまった。後ろに、引き寄せられてしまったからだ。まるで昨日と同じように、後ろから手が伸びてきて、私を抱きしめる。
昨日感じたような匂いと、背中に来る温かさを感じた。
「身体は大丈夫か」
先ほどの、椅子に座っていたはずの方の囁き声。冷たく鋭いもののはずだったのに、今はとても柔らかく、それでいて……甘く感じる。そんなはずは、ない。そのはずなのに、おかしい。
気が付けば、先ほどまでの冷たく重い空気も消えてしまっていた。
おかしい、今後ろにいる方は一体誰だろうか。
「……ダイジョブ、デス」
「そうか、それはよかった。昨日は悪かった、仕事とはいえ何も言わず出ていってしまって」
後ろを振り向けば確認が出来る。けれど、怖くて振り向けない。さっきまでの近衛騎士団長様を思い出すと、ギャップがありすぎて向けるに向けられない。
本当に、ご本人でお間違いは、ないのだろうか。