騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
「にしても、昨日のお前のあれは笑ったわ」
「笑うようなところありましたっけ?」
「いや、相手の顔思い出してみろよ」
私よりも5歳年上の先輩、ガストン先輩はきっと昨日の王城警備をしていた時の事を言ってるんだろうな。昨日、このネタでご飯中ずっとげらげらお腹抱えて笑ってたし。お酒を何杯も勧めてきてはどんどん飲ませた張本人なのだから、恨みはあるが。
昨日は、我々第三騎士団は昼に王城でのガーデンパーティーの警備に付いていた。そして、その中の参加者の中にいたのだ。……私の婚約者が。
『お前との婚約は破棄だ』
ちょうど顔を合わせた時、私に指を差してそう言い放った。パーティー中に何を言い出すかと思えば……しかもその時の私は今警備中。そんな時にそれを言ってくるなんて、こちらとしては迷惑極まりない。
周りにも貴族達がいて、警護中で支障が出るのは周りの迷惑にもなる。それを分かっていての発言か? と呆れてしまった。
『あ、はい、そうですか』
『は……?』
『じゃあ、お父様にご報告をお願いします。言い出しっぺはそっちなんですからよろしくお願いします』
そう答えると、相手は……わなわなと肩を震わせ顔を赤くしていた。そちらが言い出して、その通りにしてあげたのだからその態度はないのでは?
『はっ! お前なんか誰も貰い手なんていないだろうなっ! 家が男爵家で、しかも騎士! ご令嬢の欠片もないどうしようもない奴だしな!』
『あ、はい、そうですか』
開き直ったような、勝ち誇ったかのような態度で言い放ってくる。とはいえ、言いたいことがあるなら言わせておけばいい。そう思いつつも首にかけていたチェーンに通していた婚約指輪を彼に付き出した。
『お返ししますので、処分をお願いします』
『ちっ』
相手は雑ではあったけれどちゃんと受け取ったから、失礼しますと残してその場を後にした。ついさっき呼ばれていたのだから早く行かねばと急いだ。
そんな場面を目撃していたらしい先輩達が同情したのか、仕事終わりに引きずるように私を城下町の飲み屋に連れていき、お酒をどんどん飲ませてきた。別に気にしてないのに、と思いつつも、先輩達の優しさがちょっと、うん、ちょっと嬉しくて帰るに帰れなかった。
それなのに……何故あの男性が私の部屋にいたのだろうか。恐ろしくてしょうがない。
「おいテレシア、そこどうした」
「え?」
ここ、ここ、と先輩は自身の首をつんつんしている。
ここ、何かしたっけ? ぶつける、なんて事はなかったはずなんだけど。鍛錬とかでも木刀は当たらなかったし……というかここに当たったら大怪我だし。
「赤くなってんぞ」
「赤く?」
その時、気が付いた。今朝の惨状を。まさか、昨日の……? と、思うとサァァァ……と血の気が引き、その部分をがっしり手で押さえつけた。
「あ、はは……虫に刺されたのかなぁ?」
「お前そんなところ刺されたら勘違いされるぞ? まぁお前の事だからないだろうけどな、アッハッハッハッ!」
「あ、はは……ないですって~そんなの!」
ありました、ごめんなさい。
……とは、口が裂けても言えなかった。はは、笑えない……
とりあえず、行きたくはないけれど休憩中にでも私の部屋を確認してこよう。鍵、開けっ放しだし。不用心だもん。あぁ、現実を見たくない……
でも、もし部屋にいたあの男性が近衛騎士団の団員だったらと思うと、恐ろしくて仕方ない。そうでないようにと願っておこう。私も早くシャワールームに行ってから第三騎士団長の執務室に向かわなければ。
今日の私には見回りも警備もない。だから今日は雑用の日だから、まずは団長と副団長にお茶出しだ。