騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

 マダムサリー自ら私の採寸をしてくださるらしく、ちょっと緊張気味になってしまっていた時だった。マダムが私に話し出す。


「まさか、ロドリエス侯爵からドレスの注文が入るとは思いもしなかったわ。色恋沙汰や政略結婚なんて話もまったくなかったけれど、政略結婚の話でも出たのかしらと思っていたの。けれど、まさかあなただったとは思わず驚いたわ」

「……」


 やはり、団長様本人だったか。けれど、間に誰かひとり入れられるはずなのに、何故本人が注文したのだろうか。

 けれど、引っかかるのが……色恋沙汰。まぁ、ご本人の立場を考えれば、と言うところにもなるけれど、言い方が不敬だ。わざとだろうか。

 貴族は基本政略結婚。恋愛結婚という話は稀にあるけれど、それは数えられるくらいだそうだ。ご令嬢は家の為に嫁ぎ先を決められ、嫁いでから後継者の嫡男を産む事が基本。

 ロドリエス侯爵家は名のある騎士が一族の中に何人もいらっしゃるし、歴史のある名家であり長年王族派。そしてこの国の軍事力を管理してきた侯爵家だ。それであるなら、奥方は名のある上位貴族の令嬢が好ましい。

 それなのに、ロドリエス侯爵家のご当主である近衛騎士団長は、マーフィス男爵家の一人娘で女性騎士の私にドレスをプレゼントした。一体どう思ったのだろうか。


「ロドリエス侯爵家となれば、上位貴族のご令嬢が好ましいわ。ご当主という自覚を持っていらっしゃるのであれば、こういったお遊びはいただけないわね」

「……」

「けれど、恋愛結婚というものも稀にあるわ。その線も考えたのだけれど……貴方の他にも可愛らしいご令嬢は何人もいるわ。それに、貴方のような背の高いご令嬢だって社交界にはいるもの。となれば……貴方、どうやってロドリエス侯爵を落としたのかしら?」


 私が何度も浴びたことのある視線だ。身の程を弁えろとでも言っているかのような視線。本来であるなら、そんなもの気にせず流すところではあるけれど、相手は侯爵夫人。そして、今回の潜入捜査の協力者。いつも通りにはいかない。


「……まず、一つよろしいでしょうか」

「えぇ」

「それは、ロドリエス侯爵に対する無礼です。今の言葉は撤回してください」

「……えぇ、少し言い過ぎたわ。でも、質問には答えてちょうだい」


 そう言われると思った。けれど……私が本人に聞きたい。隣にいらっしゃるから、私ではなくご本人にお聞きください。

 と言いたいところではあるけれど、聞かれているのは団長様ではなく私だ。


「……マダム、近衛騎士団長は意外とお優しい方なのです」

「……」

「王城騎士団一人一人に目を向けてくださる方ですから」


 一体どんな目を向けているのかは分からないが。この前はウチの副団長を睨んだらしいけれど、一体何をしたのやら。


「この国一の騎士でありつつもとてもお優しく我々騎士団員達を引っ張ってくださる、いわば我々の憧れの存在なのです」

「……」


 何となく、唖然としているように見える。だいぶ苦しい回答ではあったけれど、これで勘弁してくれるのであればありがたい。

 マダムの事はあまりよく知らないから、どんな方なのかは分からないけれど。
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