騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
彼女は言った。私が着ていたドレスがとても素敵で、私にとてもよく似合っていると。
私を小馬鹿にする発言だとあの場にいた令嬢達全員がそう思っていたはず。けれど、マダムはそうではなかった。自分のブティックのドレスを侮辱する事なんて、しないはずだから。
妻は屋敷を管理し夫は仕事に集中する。それが貴族の基本であるにもかかわらず、マダムは自らブティックを経営している。そんな方はきっと自分の仕事に誇りを思っているはずだから。
夫人自ら仕事をしているのだから周りからの反感を受けているはず。けれど、ここまで人気のブティックにまで上り詰めているのだから、そうでなくては務まらないと私は思う。
それについては、好感を持てる。
けれど、それと同時に危機感を覚えた。このドレスを製作したのはマダムの経営するブティック。狩猟大会でプレゼントしてくださったあの青いドレスを注文したのが近衛騎士団長様ご本人なのか、それとも違う方を通したのか。それが分からない。
今回は協力という事で近衛騎士団長が赴いたわけだけれど、あのドレスはプライベートのもの。だから、それとこれとは全く違う。
マダムは、その注文した相手と私がドレスのプレゼントをするほどに仲が良いと思っている事だろう。もし、注文した相手がここにいらっしゃる近衛騎士団長だったとしたら……ただの騎士団員と何故そんな関係を持っているのか、探るはずだ。
一体誰の名で注文したのか。それを聞いておくべきだった。何なら、今すぐそこにいらっしゃる団長様に聞きたいくらいだ。けれど、このタイミングでコソコソしたら何か勘付かれる。
そんな事を思いつつ、まずは採寸をとマダムに隣の部屋に案内された。
「あ、あの、マダム、その……謝罪をさせてくださいませんか」
「あぁ、ドレスの事かしら。その謝罪なら必要ないわ。それよりも、身を挺して私達を守ってくれた勇敢なご令嬢を讃えるべきだわ。ありがとう、テレシア卿」
にこやかにそう伝えてくるマダムに、私はどう返した方がいいのか分からなかった。こうしてお礼を言われる事は、これまでにあまりなかったから。騎士として当然のことをしたのだから。
でも、そんな言葉をいただけて嬉しいと思っているのも確かではある。
けれど、彼女は一体私の事をどう思っているのだろうかという危機感がある。
「今度は汚さないよう、気を付けます」
「ふふ、私としては近衛騎士団にご協力させていただいているというだけだから、それを踏まえて作っているという事よ。何かあった時ドレスを庇うなんてことをしてあなたに何かあったら大変だもの。だから、気にせず任務に励んでちょうだい」
「……感謝いたします」
なるほど、そういう意味での協力という事か。確かに、今回捕まえる予定の標的が私のドレスの購入先を知ってしまえばよからぬことに繋がる可能性だってある。なら協力してもらった方がいい。