騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
お酒の匂いはする。オレンジのような香りがする。お酒はあまり詳しくはないけれど……副団長の話を思い出した。確か、オレンジっぽいお酒をお父上に押し付けられて困ってるって言ってたっけ。副団長の実家はお酒を事業にしていると聞いた。
副団長は甘いものは好きだけど、お酒は別であまり好きじゃない。だから先輩達に押し付けようとしていたけれど、甘いものが苦手な人達ばかりで私が引き取った。そのお酒に香りがよく似てる。
デガルド団長にお声がけしたらしいけれど、さすがに2本は悪いだろうとのことで1本受け取ったらしい。で、もう一本が私に回ってきたというわけだ。けれど、持ち帰った時にいつもお世話になっている寮母に譲ろうとしたら断られた。
『これとっても高価なものよ! 確か◯◯国で数本しか販売されてないものだったかしら』
と。その時はデガルド団長が1本だけで断った理由はこれだったのかと理解して、寮の子達と分け合ってありがたく飲んだんだっけ。
もしかしたら違うかもしれないけれど……どうだろう。こういった事については疎いけれど、この仮面舞踏会で振る舞われるお酒にしてはだいぶ高価なのでは? もしかしたら、特別な方に振る舞われた、とかだろうか。
でも彼は鍵がかかっていたこの休憩室のドアを開けられた。ならやっぱり、ここの家主とか、この主催者とか……?
確か、団長様がこの仮面舞踏会の招待状を入手するのが難しかったと言っていた。となると、ここに外国人商人が紛れ込めたのは何故だろうという疑問が出てくる。
そんなことを脳内で考えていると……男性は私に手を伸ばし、私の仮面に触れた。これは外してはいけないというルールがあるはず。それなのに、これを外そうとしてる?
「……結構です」
「そう言わずにさ。実は僕も一人でさ、寂しかったんだ。だから、同じく寂しくしていたんだからちょうどいいでしょ?」
「いえ、一人で大丈夫です」
「そんな寂しい事言わないでよ」
自分の仮面をしっかり持って、彼から離れてソファーから立った。この人、一体どういうつもりなの。
「ざーんねん」
もしかして、こういうのに慣れている方? そんな感じがする。早くこの人から離れたいところだけれど、ここにいないと団長様と早く合流出来ない。
この男性に気付かれる事なく、そして時間稼ぎをして団長様が帰ってくるのを待つのが一番いいのだけれど……この男性はどういうつもりなのだろうか。