騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

 ずっと護衛に他の騎士団員達への指示にと働き詰めでお疲れのはずなのに、がっかりさせてしまっただろうか。……はは、自分で言ったくせに、自分でも分かってるくせに。嫌だな、本当に。


「テレシアちゃん?」

「……あぁ、いえ、何でもないです。それも大丈夫なので気にしないでください」

「そう? ごめんなさいね」

「いえ。じゃあ、おやすみなさい」

「ありがとうテレシアちゃん。おやすみなさい」


 そうして、話が終わり寮母は一階に降りていった。

 ……私は、どうしたらいいだろう。この部屋のドアを、開けたくない。顔を合わせたら、変な事を言ってしまいそうで怖い。

 前に団長様は窓を開けて帰ったって言ってたっけ。じゃあ、もし時間になっていたら窓から帰っていったはず。まだ、いるだろうか。

 つい、ドアに背を預け、そのまましゃがみこんでしまった。

 会いたいと思っていた。けれど、団長様には婚約者がいる。じゃあ、今までの事は全部忘れた方がいい。

 でも、どうして来てくれたのだろう……?

 団長様だって、分かっているはずなのに。私のところに来るのであれば、言う事は一つ。今までの事は全部忘れろ、のはずだった。

 それなのに、彼の口から出てきた言葉は、それとは全く違った。


「……はは、馬鹿だなぁ……私……」


 何、期待してるんだろう。

 それから、何分経っただろうか。もういいだろうかと部屋を開けると、彼の姿はなかった。その代わりに窓が開いていて、そしてとあるものがテーブルの上に置いてあった。

 それは、ハンカチ。しかも……ロドリエス侯爵家の家紋が描かれたもの。


「……ちょっと待て、これダメでしょ」


 さっきまで、感情が頭の中でグルグル渦巻いていたのに、これを見た瞬間ぴたりと止まった。一気にサァァァ、と血の気が引く。

 いやちょっと待て、これはさすがに私が持っているわけにはいかない。もしこれを私が持っているところを知られてしまったら、恐ろしい事になってしまう。

 お相手は近衛騎士団長でロドリエス侯爵家ご当主。しかも今回婚約が決まった。そんな方のハンカチをこんな身分の女性が持っていた。となると……浮気とまではいかないかもしれないけれど、よからぬ噂が立ってしまうのでは?

 そんな事、あってはならないに決まってる。

 この場合、お届けに行くのが一番なのだろうけれど……一体どこに行ったんだあの人は。今から探しに行こうか。いや、いつもの王城ならまだしも、隣国の方々がこの王城にいらっしゃる。しかも、彼は今大忙しで、もしかしたら陛下のそばにいらっしゃるかもしれない。

 私にだって仕事はある。それに、団長様のタイムスケジュールは全く知らない。

 ……返すタイミングは、全くないのでは?

 そしてそれを、分かっていて置いて行った……?


「あんの人は……っ!!」


 はぁ……あの人は一体何を考えてるの? もう全く分からない……

 でもどうせ、本人に聞いたとしても答えずはぐらかすんだろうな……はは。

< 99 / 124 >

この作品をシェア

pagetop