騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「久しぶり。でもごめんね。あなたの回復薬、今ストックがないの」
「わかった。今日は学校に用事があるから立ち寄っただけだ」

(ついに回復薬も彼にとっては必要なくなってしまったのか)
 自分で回復薬を流したくせに、そんなことを思う自分をチェルシーはますますみじめに思った。

「そうだったの。私も予定があるから、そろそろここを閉めるけど」
「チェルシーの予定が終わったあと、食事に行かないか」

 予想外の言葉にチェルシーは戸惑う。
 数年ぶりにクレイグと時間をゆっくり過ごせる。
 ……だけど、今から結婚相手候補を紹介してもらうのだ。その後にクレイグと食事をしてしまえば、気持ちなんて簡単に戻ってしまうのはわかっていた。
 相手にも失礼だし、自分も報われない。そう思ったチェルシーは首を振る。

「ごめんなさい。今からの予定はどれくらいかかるかわからないのよ」

「明日まで宿を取っている。夜中でもいいし、明日でもいい。どこかで話せる時間が欲しい」
「…………」

 ふつふつと小さな怒りさえ湧いてしまう。ようやく諦めがついたと思ったら、一緒に食事をしよう、話がしたいだなんて。
 もしかすると婚約者を紹介されるのかもしれない。律儀なクレイグなら十年来の友人にやりそうなことだった。

「話なら今ではダメかしら?」
 
 とどめを刺すなら先に刺してほしいとチェルシーは思った。
 明日にまで重い気持ちを引きずるのはもう嫌だった。

「わかった。忙しいところすまない」

 ほんの少し悩んだ表情を見せたクレイグは左手に持っていた花束をチェルシーに差し出す。ピンクと水色が美しい花束だ。

「……?」
「チェルシー、愛している。俺と結婚してほしい」
「………………えっ?」

 目の前に咲き誇る大量の花の前でチェルシーは固まった。
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