騎士団長の一途な愛は十年目もすれ違う
「……なんで」
「団員に注意されたんだ。婚約者に催促されて応えるだけではだめだと。きちんと男からプロポーズをやり直すべきだと」
「婚約者……? 催促……? やり直し……?」
チェルシーは壊れた機械のようにただ呟くことしかできずにいる。クレイグを見上げれば大変真面目な顔でチェルシーを見つめている。
「指輪は女性が自身で選びたいとも聞いた。今日は時間がないなら、次の休みはどうだろうか」
「あの……ごめんなさい、話が見えなくて」
「休みのことはもう心配しなくていい。第三騎士団から、第一騎士団へ異動することになった。これでチェルシーとも暮らせる」
「ええと、そうではなくて。どうして今プロポーズを……」
困惑しきったチェルシーを見て、クレイグははっと息を飲んだ。
「やはりまだ九年だからダメだろうか……。一年後も君を愛すと誓う」
「まだ九年……?」
「そうだ」
その時、医務室の扉が開いて学校長が入ってきた。
「ああ、チェルシーここにいたのか」
学校長と目があって、チェルシーは狼狽えた。
そうだ、今から男性を紹介してもらうのだ……。混乱しきった頭では今は何も話せそうになかったが。
(そもそも今どうしてクレイグにプロポーズされていて……?????)
考えることが次々降ってきて、チェルシーの頭は真っ白になる。
「クレイグもここにいたのか」
「学校長、お久しぶりです。すみません、後ほど伺います。今彼女と話をしていまして……」
人当たりの良い笑顔浮かべた学園長は、クレイグが差し出す花束に気づいた。
「話……」
「はい、プロポーズ中です」
「話がえらく早く進んでいるな?」
「学校長、すみません! 待ち合わせ時間を少し遅らせていただいてもよいでしょうか?」
チェルシーが言うと、学園長はひらひらと手を振って部屋から出ていた。
「もう顔合わせは終わったよ。紹介するつもりだったのはクレイグだったんだから。お幸せに」
「ええ……?」
学園長が消えた方を見ながら、チェルシーはますます混乱していた。
「学校長に俺のことを婚約者だと紹介してくれようとしていたのか?」
何も理解していないクレイグが訊ねてくるから、チェルシーは頭を抱えた。
「とりあえず私の用事はなくなったみたいだから、食事でもしましょうか……? たくさん話さないといけないことがあるみたい」
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