婚約破棄したいのに、天才華道家の独占愛に火を付けてしまったようです。


 無駄だと思っていても、この想いは止められない。

 こちらを見て欲しい。振り向かせたい。
 自分の方が絶対に幸せにできる。

 菜花が上司として慕ってくれている気持ちは伝わっているし、その気持ちを裏切るべきではないとも思う。
 それでも好きで好きでたまらない。

 今にも泣き出しそうな菜花の横顔を見た時、その思いが爆発した。

 気づいたら追いかけていて彼女の細腕を掴んでいた。
 大丈夫なフリをして気丈に笑う彼女のことを抱きしめたい。そんな衝動を必死に抑える。

 だが、溢れ出た想いは止まらない。


「俺なら、そんな顔させない」


 菜花は離して欲しいと縋ったが、離さなかった。
 この手を絶対に離してはダメだと思った。


「部長、どうして……っ」
「好きな女が傷付いて泣きそうになってんの、放っておけるわけないだろ」


 泣きそうだった菜花の両目が大きく見開かれる。


「好きだ」


 真っ直ぐに目を見て言った。
 伝わって欲しくて、畳み掛ける。


「ずっと春海のことが好きだった」


 才能では劣るかもしれないが、それ以外で負けているとは思わない。
 菜花を想う気持ちも、菜花を幸せにするという自信も負けていない。

 だから、


「俺にしろよ」


 抱きしめて好きだと囁いて、とろとろになる程甘やかして愛してやれるのに。
 だが次の瞬間、強い力が割って入って強引に赤瀬から菜花を引き剥がした。


「――菜花に触るな」

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