不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
ゆっくり歩きながら、黒瀬さんが聞いてくる。
「そういえば、有本さんはどうして設計士になりたいと思ったんだ?」
「シータウンってあるでしょう? そこに初めて行ったとき――」
のんびりとした雰囲気に気が緩んだ私は、素直に高校生のときの想いを話す。
黒瀬さんも茶化すことなく真面目に聞いてくれた。でも途中から、今までに見たことのない表情を浮かべた。
彼は額に片手を当て、なにかを我慢しているように口もとを引き結んでいたのだ。
(なんだろう。照れくさそう?)
首をかしげて彼を見ると、なんでもないと首を振る。
それより私は初心を思い出して、気合いを入れなおした。
考えてみたら、私は今そのころの憧れの仕事をしているのだ。
「私、もっといろんなことに目を向けて設計しますね!」
決意表明した私を見て、黒瀬さんはニヤッと笑った。
「わかったなら、早く帰って、とっとと図面を進めてくれ」
「ここに連れてきたのは黒瀬さんでしょう!?」
まるで私が無駄な時間を使ったように言われて、口を尖らせる。
憎まれ口を叩きながらも、ここに来てよかったと思った。
おばあさんたちが焼いたクッキーをお土産にもらって、私たちは事務所に戻った。
それから私は素直に黒瀬さんの言葉に耳を傾けられるようになった。
彼は指摘だけでなくその理由も丁寧に教えてくれる。
設計士としての思想から改良のアドバイスまで。
色眼鏡の外れた私は、知識が身になっていくのを感じた。
(部長の言う通り、こんな機会を得られた私は幸運だ)
昂建設計にいたままでは気づきもしなかったことをたくさん学んだ。
繊細に注意深く設計しているから、黒瀬さんの作るものは一本筋の通った美しさがあるのだろう。
才能だけではなく、努力を惜しまない人だというのも見えてしまった。
一緒に働くうちに、どんどん彼の印象が変わっていく。
ふと垣間見えた真剣な顔を、素敵だとさえ思ってしまう。
「なんだ? 俺に見とれてないで、手を動かせ。この件が終わったら、じっくり眺めさせてやるから」
「み、見とれてなんていませんし、結構です!」
彼の言動はいつもながら軽いし、私の返しも相変わらずだったけど、そこからは棘が抜けて、じゃれ合いめいてきた。
(疲れてボーっとしてただけだから!)
心の中で言い訳して私はまた設計に戻った。
「そういえば、有本さんはどうして設計士になりたいと思ったんだ?」
「シータウンってあるでしょう? そこに初めて行ったとき――」
のんびりとした雰囲気に気が緩んだ私は、素直に高校生のときの想いを話す。
黒瀬さんも茶化すことなく真面目に聞いてくれた。でも途中から、今までに見たことのない表情を浮かべた。
彼は額に片手を当て、なにかを我慢しているように口もとを引き結んでいたのだ。
(なんだろう。照れくさそう?)
首をかしげて彼を見ると、なんでもないと首を振る。
それより私は初心を思い出して、気合いを入れなおした。
考えてみたら、私は今そのころの憧れの仕事をしているのだ。
「私、もっといろんなことに目を向けて設計しますね!」
決意表明した私を見て、黒瀬さんはニヤッと笑った。
「わかったなら、早く帰って、とっとと図面を進めてくれ」
「ここに連れてきたのは黒瀬さんでしょう!?」
まるで私が無駄な時間を使ったように言われて、口を尖らせる。
憎まれ口を叩きながらも、ここに来てよかったと思った。
おばあさんたちが焼いたクッキーをお土産にもらって、私たちは事務所に戻った。
それから私は素直に黒瀬さんの言葉に耳を傾けられるようになった。
彼は指摘だけでなくその理由も丁寧に教えてくれる。
設計士としての思想から改良のアドバイスまで。
色眼鏡の外れた私は、知識が身になっていくのを感じた。
(部長の言う通り、こんな機会を得られた私は幸運だ)
昂建設計にいたままでは気づきもしなかったことをたくさん学んだ。
繊細に注意深く設計しているから、黒瀬さんの作るものは一本筋の通った美しさがあるのだろう。
才能だけではなく、努力を惜しまない人だというのも見えてしまった。
一緒に働くうちに、どんどん彼の印象が変わっていく。
ふと垣間見えた真剣な顔を、素敵だとさえ思ってしまう。
「なんだ? 俺に見とれてないで、手を動かせ。この件が終わったら、じっくり眺めさせてやるから」
「み、見とれてなんていませんし、結構です!」
彼の言動はいつもながら軽いし、私の返しも相変わらずだったけど、そこからは棘が抜けて、じゃれ合いめいてきた。
(疲れてボーっとしてただけだから!)
心の中で言い訳して私はまた設計に戻った。